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ムラマサ メモリ容量 1,961 耐久値 3,850 防御力 121 バレット防御 39 レーザー防御 26 飛行速度 15,000 飛行ブースト速度 16,530 ブーストSTM消費 233 ダウン耐性 10 STM回復性能 71 炎上耐性 15 帯電耐性 15 アシッド耐性 15 重量 238
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VIPミニ四駆スレ的マシン解説 【基本データ】 ノーマル ●全長132mm ●全幅90mm ●全高46mm ●Item No:19409 ●本体価格600円→本体価格780円(2015年8月改定) ●1996年3月6日発売 スペシャルキット ●全長132mm ●全幅90mm ●全高46mm ●Item No:94647 ●本体価格1,100円 ●2008年2月23日(土)ごろ発売 【本体内容】 シャーシはスーパー1。 ギヤ比は5 1に加え、4 1が付属。 ギヤケースはグリーン、サイドガードはS1標準型のブルーが付属。 ホイールはフルカウル標準型の赤、タイヤもフルカウル標準型。 ゴムリング付14mmプラローラー、ゴム無し10mmを装備。 ボディと同じランナーにフロントホイール用キャップが付属する。ホイールキャップが付属する唯一のキットである(ホイールキャップは、フロントカウルがほとんどないデザインを補うために付加されている。)。 また、トライダガー Xのボディがセットになったスペシャルキットも発売された。 【漫画、アニメでの活躍】 爆走兄弟レッツ&ゴーに登場した鷹羽リョウのトライダガーXに続く2代目マシン。 セラミックの硬さとグラスファイバーの柔軟性を兼ね備えたという夢素材「ZMC」で堅固に作られたボディ(という設定)で、鉄をも切り裂くビークスパイダーの空気の刃でもビクともしない。 しかし最初に土屋博士が作ったボディはZMCが未完成で、ダウンフォースの負荷に耐えられず崩壊している。 そのため、ZMCの開発者であり土屋博士(と大神博士とクスコ博士)の師匠である岡田鉄心のもとに赴くこととなる。 そこで苦労の末、岡田鉄心の助力もありボディの焼結に成功。窯は爆発四散したものの、炎の跡がボディのファイヤーパターンとして焼き付いた。 ちなみに、鉄心がZMC用の釉(うわぐすり)を取り出しているシーンでシャイニングスコーピオンの存在が示唆されている。 完成したボディはXと同じく非常に強いダウンフォースを発生させる。それに加え、フロントカウル後部やリヤウイング後方からジェット気流を発生させてる。 無印中盤からWGP編までを戦った、息の長いマシンとなった(だたし中身はアップデートを繰り返している)。 最後はロッソストラーダ戦で大きく破損、そのためMAX編で新ZMCのボディとスーパーXシャーシの新マシン ライジングトリガーの開発に踏み切ることとなる。 アニメ版ではボディの空力設定が若干掘り下げられ、「独特なボディ形状がもたらすジェット効果が、今まで以上のダウンフォースを生み出して、安定性を補っている」とされている。 ZMCの為に鉄心先生に助力を乞うのは原作と同様だが、こちらでは焼結時はカラーリングが一切ない全身ガンメタルの状態で出来上がる。 その後に行われたビークスパイダーとのリベンジマッチの際、カイがトライダガーにガソリンをぶっかけ火だるまにするという下種な行為を行うが、 ZMCボディには効かず、この時にファイヤーパターン(とコクピットの金色と「Z」の文字)が刻み込まれた。 ちなみになぜかアニメではホイールキャップが黄色い。49話では走行中なのにホイールのロゴが読み取れるシーンがあるので、もしかしたら静止ホイールの一種だったのかもしれないw。 Xから引き続き壁走りを得意ワザとする(原作では壁走りの描写はほとんど無い。しかもWGP初戦(原作)でサイクロンマグナムにパクられるし、更に劇場版ではクールカリビアンズまで壁走している)。 ほとんどのシーンでは作画省略の為にファイヤーパターンがオレンジ一色になっていたが、ファイヤーパターンを刻み込まれるシーンなどではきちんとキットと同じグラデーションが入っている。 アニメオリジナルの商店街のレースで鉄心先生と餡蜜食べたり銭湯で裸の付き合いしたりしている。 こちらではロッソストラーダ戦後の代替わりもなかったため、アニメ放映期間的には約一年半にもわたりレギュラーマシンとして走り続けるという快挙を成し遂げている。…が、その割には初戦以降の活躍は少ない。 登場した次のエピソードでは野生の猿に盗まれ、その後はリョウが二郎丸のサポートに回りがちだったためにそもそもレースの描写が少なく、レースに出たら出たで画面端でビークスパイダーのストーキングを受けていたりなどであまりメインに出てこない。 WGP編に入るとチームメンバーのマシンがZMCコーティングを施された関係で強度的なアドバンテージも減り、それどころかディオスパーダのアタックで普通に破損する始末。 リョウ自身が割と大人な性格をしているせいで豪みたいな突飛な行動をせずにチームランニングに徹していることも有り、見せ場らしい見せ場がない。むしろリョウ本人の掘り下げの方が多い。 活躍自体は無いわけではないのだがいかんせん地味。重要なポジションには居ることが多いので、よく言えば「いぶし銀」といった感じのポジションか。 なお、こちらではどうなったか不明なままMAX編でライジングトリガーに代替している。 劇場版では、廃工場で一時行方不明となったリョウに変わり、リオンが走らせるという場面があった。 ガンブラスターとネオトライダガーは、開発過程で深い因縁のあるいわば異母兄弟のような存在なので、何ともニクい演出である。 わずかな場面だが、トライダガーもガンブラスターを止めようというリオンの熱意に応え、本来の主ではないにも関わらずその性能を遺憾無く発揮した。 PSゲーム「エターナルウィングス」では、ノーマルのネオトライダガーのほか、究極のマシンとして金ぴか仕様が登場している。 週刊少年ジャンプ 2012年48号のこち亀では、主人公の2011年チャンピオンマシンとして改造された状態で登場。 【VIP内での評価】 Z・M・C! Z・M・C! 【公式ページ】 http //www.tamiya.com/japan/products/19409neo_tridagger/index.htm http //mini4wd.jp/product/item/19409 ネオトライダガーZMC スペシャルキット http //www.tamiya.com/japan/products/94647neotridagger_spkit/index.htm 【備考】 現実のトライダガーはZMC製ではないので、注意しよう! フルカウルといいつつ前タイヤが露出している。その為大径化しやすい。 コックピットやウイングを除けばかなりの低重心デザインのボディが魅力だが、おかげで他シャーシへの載せ替えが非常に難しい。特にフロントの低さがネック。 恐らく、フルカウルシリーズのリヤモーター系キットのボディでは、最も載せ替えに手間がかかるボディである。 代わりに下記クリヤーボディではある程度、フロントフックの高さを調節して載せ替えやすくなっている。 フロントフック部をS2シャーシ向けに金型改修されたカーボンスペシャルが2019年に漸く登場。此方はカーボンボディでZMC設定を再現している。 Vマグナムとウイング形状がよく似ているが、おかげでやっぱり折れやすい。 GUPでゴールドメッキボディもあった。 エンペラーゴールドメッキボディと同じくITEMナンバー的には通常ラインナップと同じ10000番台(ITEM 15171)だった。 また、ブラックメッキボディも存在する。こちらはちゃんとITEMが94213と、90000台となっている。 AMAZONのゴールドメッキボディの商品ページでは、サンプル画像に何故かどこの馬の骨ともつかぬプラモのクリヤーパーツが使われている。 そのほか、景品用などでクリヤーレッド成型の非売品ボディもあるらしい。 クリヤーボディ(ポリカーボネイトボディ)もある。 透明なので色が欲しいときは塗装が必要だが、その分透明感を生かしたクリヤー塗装などが可能。 ネオトライダガーの独特な低いボディ形状のため、他のフルカウル系ポリカボディでお馴染みのスパッツ化などがやり難くなっている(と、言うかほぼ出来ない)。 代わりに、フロントの低さがあだとなって他シャーシへの載せ替えがかなり手間取るノーマルボディに比べ、フロントフックが別パーツのためネジとスペーサーで高さを調節すれば、ある程度流用が出来る。 長らく絶版だったが、2015年バックブレーダー クリヤーボディと共にまさかの再版。 バックブレーダー クリヤーボディと同じく、新規にITEMナンバーが取得され商品内容も若干変更になっている。 やはりバックブレーダーと同じく、表面に保護フィルムが追加されて、S2シャーシやARシャーシに載せられるよう、ボディキャッチ部のパーツに金型改修が入り、ステッカーもビニール素材になる。 プライズ版と、ボディをS2用に金型改修したカーボンスペシャルも登場。 Windows 95とのタイアップで、ネオトライダガー用の特性ステッカーが存在した。 配色やデザインが大きく変更され、ボディサイドにはWindows 95、ウイングにはMicrosoftの文字が入っている。 ちなみに歴代売上3位を誇る(1位はアバンテ、2位はVマグナム、4位はサイクロンマグナム、5位はビークスパイダー) 実を言うと、現実的にもCNT(カーボンナノチューブ:炭素同素体の一種)という、ダイヤモンド並みの硬度と鋼鉄の20倍の強度、さらに重量はアルミの1/2という夢の素材が存在する。 さらに、セラミック素材に使われ炭素とよく似た性質を持つケイ素もナノチューブ構造をとることが確認されている。 2次ブームのころ、トミー(現タカラトミー)からキャラトミカ版が発売された。 こちらでもノーマルのほか、金メッキ版が存在した。 また、同じくトミーからトイラジも販売されていた。このトイラジにはビートマグナムもあった。
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このページはこちらに移転しました わがままボディー 作詞/451スレ162 ふらりビデオ屋に立ち寄って エロコーナーの引力に引きずられた 手に取ったパッケージには わがままボディーの文字 わがままボディーってなんだろう 脳の命令聞いてくれないのかな わがままな人の体なのかな 謎は深まるばかり わからないから今夜は 二次元にお世話になる事にした わがままボディー わがままボディー
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時は午後九時前。 琴吹邸のリビングではメイドや執事達があくせく働いていた。 食器同士が触れ合う金属音。温かいスープから沸き立つ湯気。芸術的な彩りを放つサラダ。鼻孔を突き抜ける芳醇な香りは分厚いステーキから。 五感全てが食欲を増幅させる。 律「ひぇー、いつもこんなの食ってんのかよ。良いなぁ」 口内に涎が溜まってゆくのを感じて、律は咄嗟に口を閉じた。 純「…………」 純の手が静かに食器へと伸びる。 もう少しで料理に手が届くところで、純の口の中に酢コンブが捩じ込まれた。 和「そんなにお腹空いたんなら酢コンブでも食べてなさい。自分で買ったんでしょ」 純「知りませんよこんなの~っ!」 和は賢しくも酢コンブを全て純に押し付けていた。 口の中に広がる独特な臭みと酸味に純は顔をしかめた。 紬「ふふ、焦らなくても料理は逃げたりしないわよ」 紬は貫徹して朗らかな笑みを絶やさない。 すると執事の一人が紬に耳打ちした。 紬「ええ、通してあげて」 紬の命令を聞き、執事は足音一つ立たないしなやかな動きで部屋を後にした。 和「一国の主みたいね」 律「でも琴吹財閥って解体したんじゃ……」 内容が内容の為、律はしどろもどろになりながらも紬に尋ねる。 紬「ええ、社益の殆どを持っていかれたわ。でも生活にはあまり支障は無いみたいなの」 律「え? そうなの?」 和「千ある内の八百を奪われても、一しか持たない庶民よりは裕福って事ね」 和はそう言って水が注がれたグラスに口をつけた。 紬「ええ、その点は問題無いんだけど。従者衆を持っていかれたのは辛いわ」 律「じゅーしゃしゅう?」 聞き慣れない単語に律は首を傾げる。 紬はかつて自分の側に仕えてくれていた五人に想いを馳せ、高い天井を仰いだ。 紬「加藤、伊藤、後藤、江藤、そして斎藤……」 五人の名を紡ぐ紬の表情は物憂げだった。 紬「皆私の為に頑張ってくれていたわ。澪ちゃん達と比べたらまだまだだけど、ここまで強くなれたのもきっとあの人達のお陰」 紬の言葉を興味津津で聞いていたのは和だった。 和「……その人達って、私よりも強いのかしら?」 紬「強いわ」 紬は即答した。予想外の回答に和は眉を顰めた。 桜高の女帝である和よりも強いとなるとその実力は如何ほどのものなのか、少なくとも律の思考は遠く及ばなかった。 紬「『絶対の彼方』の意味を知った今なら分かるわ。少なくとも斎藤は、ここに居る誰よりも強い」 沈黙が流れた。 普段ならここで余計な事を口走る純も今は口の中の酢コンブを消化するのに夢中になっている。 豪勢な料理、豪華な造りのリビング。その中で空気だけが清閑だった。 誰も口を開くことなく十秒程過ぎた時、仰々しい蝶番付きの扉が開いた。 姫子「え? 何この空気……」 若干引きつった笑みを浮かべつつ、姫子がテーブルについた。 紬「あ、ごめんなさい。じゃあ全員揃った事だし──」 純「いただきます!」 紬の言葉を遮り、待ってましたと言わん許りに純が料理に飛びついた。 和「はぁ、犬でもそんなにがっつかないわよ」 律「ははっ、保護者みたいだな」 やはり人間というものは充実した食事の前では泣きも怒りもしないもので、若干重くなっていた空気は料理が半分ほどになる頃には払拭されていた。 律「私今日死んでも悔やまないよ……」 純「私もです。もう普通のご飯食べれないや……」 今日一日でかなり舌が肥えたのではないかと錯覚してしまう程の上等な料理に、各々の目尻は緩んでいた。 姫子「しずか達にも食べさせてあげたかったな。特に梓ちゃんには悪い事しちゃったかな」 律「梓? もしかして和が言ってた梓を強くするアテって……」 紙ナプキンで口を拭いつつ、姫子は答えた。 姫子「一応そんな事任されてるね。あの子の心配はしなくて良いよ」 多分今頃夢の中だけど、と姫子は心の中で呟いた。 姫子「まぁそれは置いといて……。お願いがあります琴吹 紬さん」 一際険しい顔をして、姫子は紬の方を見た。 紬「え?」 姫子「今の琴吹財閥の財力を総結集して、唯奪還の為の調査団を作って欲しいの」 姫子の口から放たれた要求は、とてもではないが一介の高校生にするものではなかった。 たとえその相手がその手の界隈で名を轟かせる琴吹財閥の令嬢だとしても。 紬「えっと……。その……」 姫子「無理なお願いをしてるのは分かってる。でも唯は今国外で独りぼっちなんだよ? 私はこのまま黙って見てるなんていやだよ」 唯が国外に居るという情報はここに居る全員にとっては初耳の情報だ。 それはさておき、唯を助けたいという姫子の想いはここに居る全員に通ずるものだった。 紬「ごめんなさい……。そればかりは私の力じゃあ無理なの」 紬は顔を伏せた。たとえ琴吹財閥の令嬢と言えど出来る事には限界がある。 肝心なところで何の役にも立てない自分が堪らなく嫌になった。 再び空気が重くなり始めたその時、蝶番の扉が開いた。 「若王子機関の拠点は南極。唯はそこで行われている実験の材料として丁重に保護されてるよ」 黒いスーツに身を包んだ初老の男がそこに居た。 漆黒のスーツは血に塗れてどす黒く変色しており、顔の皮膚は重度の火傷を負ったかのように突っ張っている。 「こいつの見込みだと少なくとも後二週間は無事だそうだ。これで調査団は必要無くなったな」 両手首を縛るように透き通った氷が男の手に纏わりついている。 男の歯はがちがちと震え、その年に不釣り合いな大粒の涙が頬を伝っている。 首筋に押し当てられた鈍色の刃が男の恐怖心を更に煽った。 澪「ムギ、家のセキュリティはもっと固めとかないとな。鼠が紛れ込んでたぞ」 男の背後から現れたのは澪だった。 「ひっ……。ひっ」 何十年と拷問を受け続けたかのような苦悶の表情を浮かべる男。 澪の挙動の一つ一つに反応して震える様は、まるで小動物のようだった。 紬「そんな……。嘘でしょ……?」 紬は驚愕した。 澪がこの家のセキュリティを難なく掻い潜った事ではなく、侵入者の男が澪に倒されているという事に。 紬がたとえ軽音部の全員が束になっても敵わないだろうと思っていた従者衆が一人、伊藤が見るも無残な姿になっていた。 澪「夜中までここに忍んで、闇に乗じてムギを殺すつもりだったみたいだな」 澪は伊藤の襟首を掴み、そのまま自分の胸元に引き寄せた。 そして続け様に喉元に刀を突き付ける。 「い、いやだっ……! 助けてください!」 苦し紛れな命乞いに澪は大きく溜め息をついた。 澪「どうする? 殺すなら私が代わりにやっとくけど」 言いながら澪は伊藤の頬に手を当てた。 「いっ!? ぎゃああああああっ!!」 触れた部分から浸食するように氷が広がってゆく。 凍傷を負った顔の皮膚が更に凍らされ、目も当てられない悲惨なものとなった。 紬「止めて!」 紬は喉が裂けんばかりに大声で叫んだ。 目には涙が溜まっており、太い眉は八の字に垂れ下がっている。 澪「…………」 澪は無言で手を離した。 既に意識は手放しているようで、伊藤は物理法則に逆らわずに崩れるように倒れ伏した。 純は思った。 自分が憧れていた澪は既に死んでいるのだと。 それが良いか悪いか知る術を彼女は持っていない。 姫子は思った。 梓を強くすると約束したものの、果たして自分に梓を正しい道に導ける力はあるのだろうかと。 和は思った。 やはりどれだけの器量を持とうとも、人が人である限り観測し得ないイレギュラーは確実に存在するのだと。 紬「澪ちゃん……」 紬の心は揺れ動く。 かつて自分が信頼を寄せていた裏切り者が、現在自分が信頼を寄せる友人にあっさりと蹂躙されてしまった事実に。 そして澪の変貌に誰よりもショックを受けた者が居た。 律(澪……。お前どうしちまったんだよ……) 人と呼べるかすら疑わしい今の澪を、律は睨むように見据えた。 伊藤は直ぐに従者達による治療を受けた。 だが凍傷の度合いは皮膚の下の組織まで凍て付かせる凶悪なレベルだったらしく、応急処置だけでは追い付かないので急遽病院に搬送された。 澪「まぁこんなところかな」 今は紬の部屋に場所を移し、澪が得た情報を共有している。 澪「気になるのは『エデン計画』の概要、そして何で拠点を南極にする必要があったのか、だな」 伊藤が握っていた情報は朝方澪を狙った狙撃手が持っていたものとさほど変わりは無かった。 それでもこの情報が有るか無いかでは今後の方針が大きく変わる。 澪達はいちごに対して大きなアドバンテージを得た事になるのだ。 和「場所が分かってもそんな所が拠点じゃあね……」 紬「あ、そこまでの足くらいなら何とかなると思う」 問題の一つは早々に解決された。 だがそれ以外にも課せられた問題は数多くある。 純「でも敵は序列四番目の『沼』でしょう? 噂が本当なら何の罠も無く拠点を置くなんてしないと思うんですけど……」 そう。相手は知略のみで桜高のトップ集団の中に食い込んできた、言わば策士だ。 侵入に当たって常に最悪のパターン想定しておくのが道理だろう。 どれだけ用心したところで、若王子 いちごが相手の時に限っては用心のし過ぎという事は無いのだ。 姫子「それについて一つ提案があるの」 部屋の隅で壁に寄り掛かっていた姫子が唐突に挙手した。 そこに居る全員が一斉に姫子を見る。 姫子「しずかを使おう。あの子を単独で拠点に忍ばせる」 姫子の提案に対し、和が黙ってなかった。 和「……自分が言ってる事の意味は分かってる? そんな事したらあの子、十中八九死ぬわよ」 姫子「私の見解じゃあ七割は生きて帰れるよ。一番生存率が高いのはしずかだと思うの」 解せない。和は素直にそう思った。 木下 しずかが最近トップランカーに食い込んできたのは知っていたが、この戦いに介入出来るような力は持っていないと踏んでいたのだ。 澪「まぁ、やってやれない事は無いだろうな」 和「どういう事?」 和の問いに対し、澪はどこか遠い目をして答えた。 澪「完全ステルス能力。あの子は誰であろうと絶対に視覚出来ないからだよ」 姫子「正確には視覚と聴覚による他者との干渉を一切遮断する。自分から不用意に近付かない限りは誰にも気付かれないよ」 和「…………」 それでも和は納得出来なかった。 聴覚と視覚から存在を感じられないのなら、それはつまり気配すら残さないのと同義だ。 だがたった一つ。しずかのステルス能力には致命的な穴がある。 和「……闘気」 和の呟きに姫子は目を伏せた。 恐らくその一点こそが最大の懸案事項だったのだろう。 姫子「そう……だね。あの子は闘気の存在自体を認知出来てないから、人に元々備わってる闘気を気取られたら……」 姫子はそこから先を言う事が出来なかった。 悲惨な境遇を共有した友人が死ぬ。 しかもそれは決して有り得ないIfではないのだ。 たとえ仮想の中であろうと、そんな事象とは向き合いたくはない。 和「この子にそのステルス能力をコピーさせたら……」 純「馬鹿言わないで下さいよ。体質までコピー出来る程人間辞めてないですって」 和の意見は一瞬で一蹴された。 純は和を蔑むような呆れ顔を浮かべている。 和はそのまま助けを求めるように紬の方を見た。 どこか悲しそうな顔はしているが、姫子の意見に異論は無さそうだった。 和「クラスメイトが死ぬかもしれないのよ!?」 律「でも唯が死んじゃうのも嫌だ!」 今まで黙っていた律が声を上げた。 怒号に近い叫びだったが表情はやけに穏やかだ。 律「唯を助ける為なら皆命張る覚悟は出来てるんだ。助ける人がしずかになっても同じ事だよ」 拙いながらも律の想いはひしひしと皆の胸に伝わってくる。 律「誰も死なせねぇ。唯を助ける為にしずかが死にそうになったら私が助ける!」 それは律の矜持なのだろう。 いたずらな覚悟ではない、皆が笑ってハッピーエンドを迎える為の死に対する覚悟。 和「そんなに上手くいくわけないじゃない……。私だって唯が死ぬのは辛いわ。でも犠牲の上に立ったあの子の辛そうな顔なんて見たくないの」 唯を失った悲しみ。何も出来ない今の状況に対する妬み。 律はそんなネガティブな感情を一身に受け止めて、言った。 律「大丈夫」 和の両肩に手が置かれる。 小さくて頼りないその手は、とても温かかった。 律「皆唯が大好きだよ」 紬「ええ、仮に従者衆全員を殺める事になっても、私が死ぬ事になっても……。私は唯ちゃんを恨んだりなんかしない」 純「むしろここで動かなかったら私は私を許せませんね。脇役に成り下がるなんて真っ平です」 姫子「私達は大丈夫。失う覚悟なんてまだ決められる自信は無いけど、失わない為に傷付く覚悟ならとっくに出来てるからね」 純と姫子は自信に満ち溢れた笑みを貼り付け、紬の部屋から退出した。 和は幼馴染みがここまで皆に愛されている事にうち震えていた。 澪「私は和の仲間だよ」 澪の表情は氷のように冷たい。 だが紡ぐ言葉はとても優しかった。 澪「だから大丈夫」 和は顔を伏せる。 和の頬を何かが伝うのを見た者は誰も居なかった。 いちご「斎藤、これを見てくれる?」 斎藤「はい」 南極の氷を掘り砕いて作った一室。 所謂機関本部の地下室に二人は居た。 斎藤はいちごから手渡された何かの設計図らしきものに目を通す。 斎藤「…………」 いちご「それを明日から三日以内に完成させるわ。参考までに聞きたいんだけど……」 そこまでのいちごの言葉は斎藤の耳には入っていなかった。 それほどまでに、書類に書かれている事は驚愕に値していたのだ。 いちご「あなたとこれがやり合ったとして、これに勝てる自信はある?」 斎藤「ありません」 斎藤は即答した。 斎藤「十中八九私の負けでしょう。運良く勝てたとしてもただではすまない筈です」 いちごは分かっていたとでも良いたげにほくそ笑んだ。 いちご「もう一つ質問。『龍』を奪った時にあの場に居た子の中で、あなたより強い子は居た?」 斎藤「恐らく『龍』の片割れだけでしょう」 それを聞いていちごは更に口角を上げた。 いちご「そう。ならこれの製造を決定するわ」 斎藤「…………」 斎藤は自分の口を憎んだ。 自分の選択の結果、こんな化け物が世に生まれてしまうのだから。 設計図には何かのパーツらしきものが無尽蔵に書き連ねられている。 紙の左端の辺りには一際大きな文字で『タナトス』と書かれていた。 17
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唯「出して! 出してよぉっ!!」 発狂気味に叫びながら彼女は叫び続ける。 殴打し続けた扉は大きく陥没してはいるものの開く気配は無い。 赤子のように泣き喚いても差し伸ばされる手は無い。 やがて泣き疲れたのか、唯はベッドに顔を埋めて押し黙った。 時折聞こえる嗚咽を漏らす音は虚しく響く。 唯「うぅ……。ギー太ぁ……」 シーツに埋めた顔を起こすとスタンドに立て掛けられたギターが目に入った。 買った当初より少しネックが反ってしまっただろうか、適切なメンテナンスは殆ど施されてないので若干古ぼけてしまっている。 唯は何かに取り憑かれたようにふらふらとギターに手を伸ばし、それを弾くわけでもなくただそっと抱き締めた。 唯「誰か、誰か助けてよ……」 ぼそりと呟いたその時、それは起きた。 唯「ひっ──!?」 床、天井、壁。あらゆる場所から白い蒸気のようなものが噴出される。 たちまち煙に覆われてゆく部屋の外から放送の音が聞こえてきた。 「披験体をエデンシステム内に搬送します。関係しているクルーは速やかに持ち場に待機、該当しないクルーは収容区域から速やかに退出してください」 放送の直後に外が急に慌ただしくなった。 唯「うっ……ごほっ、ごほっ」 催眠ガスの類のものなのだろう。 ぼんやりと滲んでゆく意識の中で唯は思考する。 披験体。 エデンシステム。 搬送。 収容区域。 それらの単語から辿り着く答えは……。 唯「私……。死んじゃうのかな……?」 これからどれ程の苦汁を飲まされるのだろうか。 もしかしたら全身を捌かれて中を掻き乱されるのかもしれない。 或いは全身の血を一滴残らず搾り取られるのかもしれない。 絶望のヴィジョンだけが頭を過ぎる。 唯「いやだ、よ……。死にたくないよ……」 唯の意識はフェードアウトしていった。 斎藤「……催眠効果が作用したようですね」 いちご「まだ安心は出来ないわ。後三十分放出を続けて」 慌ただしく駆け回るクルー達がいちごの一声で更に動きを早める。 斎藤「しかしよろしいのでしょうか。プランを早めるとエデンシステムは正確に起動しない恐れが……」 いちご「背に腹は代えられないの。今は時間が無いからね」 事態がますます深刻化してゆく事にいちごはひたすら憤っていた。 しずかの潜入はそれほどの被害を及ぼしていたのだ。 いちご「こっちにはタナトスもあるし、最悪あちら側に対抗出来る力さえ出来ればそれで良いわ」 ひたすら後手に回り続ける。 それはいちごが今まで経験した事の無い状況だ。 桜高でトップランカーに登り詰めるまでに彼女は一度も敵に傷を負わされたことはない。 それは彼女の闘いが相手の千手先を読んで事前に策を仕掛ける計算ずくの詰め将棋だったからだ。 いちご「大丈夫……。大丈夫だから」 うわ言のように呟く彼女の額にはうっすらと汗が滲んでいた。 何から何までイレギュラーばかりだ。 自分の居場所がこれほど早く特定されるとは思わなかった。 しずかが単身でここへ乗り込んでくるとは思わなかった。 だがそれも仕方ないと言ってしまえばそれまでだ。 彼女は澪がかつての憂と同等のレベルまで昇華している事も知らなかった。 それでは主君に絶対的な忠誠を誓う従者衆が一人、伊藤が恐怖のあまり自白してしまう事も予測出来ない。 そこまで観察する為の労力は全て憂に牽制をかける事によって使い果たしていたのだから。 いちご「…………」 唾を飲み込んでいちごは立ち上がった。 先程まで狼狽していた頼りない表情は影を潜めている。 いちご「あの子から抽出するエネルギーの内の五パーセントをタナトスに回して」 斎藤「……はい」 いちご「そして四十五パーセントをエデンシステムに投入」 斎藤「…………」 斎藤は顔にこそ出さなかったものの、その数字に疑問を覚えた。 残りの半分を温存する意味は何なのだろうか。 その考えは直後に放たれたいちごの言葉によって払拭された。 いちご「残りの半分はエデンシステムを介して私が貰うから」 その言葉の意味を斎藤は直ぐに理解した。 そして同時にいちごの強靱なる精神を触れる。 唯から抽出する『龍』の闘気の内の半分を身体に宿すという事は人外の者へと堕落してしまうという事だ。 その決断をこうも容易く下してしまうという事は自分の命を軽く見ている事と同義。 普通ならば褒められたものではないが斎藤は違った。 むしろあらゆる犠牲を払ってでも目的を成さんとするいちごに畏敬の念すら覚える。 いちご「何してるの? 早くして」 斎藤「は、はい……」 この少女ならば或いは……。 制御すら困難な『龍』の力すら涼しい顔で手駒としてしまうかもしれない。 斎藤は少し遅れて、堂々と歩むいちごの背後を恐縮するようにおずおずと着いて行った。 一昨日しずかが通った軌道と同じ空を一台のジェットが走る。 機内に不快な揺れは無く、各々が迫る戦いの時に備えて集中力を高めていた。 律「なぁ澪」 澪「うん?」 不意な呼び掛けに澪は刀を手入れする手を止めた。 律「仮にさ、あちらさんの中に『絶対の彼方』を越えた人間が百人居たとする。お前ならその内何人倒せる自信がある?」 澪は口を噤んで質問の意図を探ってみたが、今まで律が深い考えを以て何かを言った事があっただろうかと考えると馬鹿らしくなり、率直に答える。 澪「百人居るなら百人倒せるだろうな。多分五百人でも千人でもそれは変わらないよ」 律「そっか……。そりゃ頼もしいな」 律の曖昧な返事に澪は違和感を覚えた。 だがそれはそこまでの話で、澪はその違和感を胸にしまったまま再び刀の手入れへと戻る。 再び静寂が機内に満ちた。 中にはタオルケットを被って眠りについている者もいるのでそれは当然なのだろう。 離陸してからどれくらい時間が経っただろうか。 かつてしずかがこの機内でそう感じたように、律と澪もそんな事をぼんやりと考えていた。 その時── 澪「っ!」 けたたましい警報音が機内に鳴り響いた。 その音に遅れて仮眠を取っていた者も次々に飛び起きる。 和「皆落ち着いて。飛び降りるのは警報が鳴り止んでからだか──」 和はそう言いかけて言葉を止めた。 ぞわりと首筋を這う感覚が和の思考を一瞬だけ掻き乱す。 澪「飛べ!」 喉が張り裂けんばかりに叫び、澪は鞘で機内の壁を突いて。 動作の見た目とは裏腹に、機体に大きな風穴が空く。 紬「えっ!? なんなの──」 律と紬だけが事態を把握していなかった。 痺れを切らした純が二人の首を掴み、躊躇いなく外へ飛ぶ。 律「のおおおおおおおっ!?」 律の叫び声が空に響いた。 続けて三花、梓、姫子、、和の順に飛び降りる。 最後に澪が飛び降りようとしたその時、それは起きた。 澪「くっ……!」 機体が外からひしゃげてゆき、黒い何かが突き出て来る。 機体の外に出る事を諦めた澪は咄嗟に身を屈めて刀を床に突き立てた。 機体はみるみるうちに崩壊し、飛散してただの鉄屑となり、今の状況が露になる。 澪を囲むように突き出した何かは黒い牙で、鉄屑が流れ込む先には深い闇が広がっていた。 澪「食べられる一歩手前ってとこか……」 このまま停滞を続けていればいつか牙にその身を砕かれる。 だがこの闇の中に身を投じても無事で済まないのは同じ事だろう。 律「な……」 律は目の前の光景に息を飲む。 今までの自分の人生も普通とは言い難かったが、これはあまりにも現実離れし過ぎだ。 律「なんじゃこりゃああああああああっ!?」 律の眼前には鉄の竜がジェット機を食い荒らす光景が広がっていた。 全長一キロはあろうか、最早その漆黒の身体の全貌を視界に収める事など出来はしない。 瞳を象った水晶体は赤くてらてらと輝いている。 純「ちょっと大人しくして下さいって!」 この巨竜を相手にする前に乗り越えるべき壁がある。 遥か上空から飛び降りた純達は必然、このままだと地上に叩き付けられてしまうのだ。 どうしたものかと純はちらりと姫子の方を見た。 姫子「しっかり掴まっててね」 三花「はーい」 姫子は三花を腰から抱き抱え、螺旋を描くように落下している。 吹き荒れる風を上手く制御して滑空しているのだろう。 表情に焦りの色は一切無い。 純「なるほど……」 純もそれに倣って闘気を緑に切り替え、二人を抱えたまま滑空する。 始めは不安定だったものの、風の制御を繰り返しているうちにその軌道は安定してきた。 梓「どうするんですか!? このままだと私達死んじゃいますよ!!」 和「うろたえないの。これくらい今の澪と比べれば大した問題じゃないわ」 和は涼しい顔で刀を鞘から抜き、地上に向けた。 凍土から吸い寄せられるように光が集ってゆき、巨大な剣を形成する。 和「しっかり掴まってなさい。まぁ肩の脱臼は避けられないだろうけど、それくらいなら我慢出来るわよね?」 和の言葉で梓はこれから彼女が何をしようとしているかを悟った。 無謀過ぎるとは思ったものの他にこの状況を打破出来る策は無い。 梓「…………」 無言で頷き、差し出された和の手を取ると、温もりが梓の手を覆った。 刃が風を裂き、雪を切り、落下の速度が段違いに上がる。 地表に激突する直前でも、梓は目を逸らさなかった。 和「うぐっ───」 光の刃が雪に突き刺さり、とてつもない衝撃が走る。 鈍く嫌な音が二人の肩から聞こえた。 高度五十メートル、およそ学校の校舎ほどの高さだろうか。 一度だらりと刀の柄にぶらさがると二人はそこから飛び降りた。 梓「大丈夫ですか……?」 和「わりと平気ね。ちょっと待ってて、直ぐに肩入れてあげるから」 むくりと立ち上がり、和はだらしなく垂れた右腕を無理矢理矯正する。 その様子をひとしきり眺めると、梓は空を覆う黒い影に視線を移した。 梓「澪先輩……」 澪を助けたい想いと自分ではどうにもならないと思う理性が梓の中で葛藤していた。 不気味な呻き声を上げて空を泳ぐ巨影の名はタナトス。 ただそこに在る命を情緒も無く、配慮も無く、躊躇も無く刈り取る。ただそれだけの為に造られた兵器だ。 長い胴とは裏腹に歪に膨れ上がった腹部は鯨のようにも見える。 和「大丈夫よ」 いつの間にか肩の矯正を終えた和が梓に呼び掛けた。 和「あれがどういったものなのかは分からない。けど澪の方が怖いもの」 梓「怖い……?」 顔に疑問の色を張り付けて梓は復唱した。 和はふっ、と微笑むと梓の首元に手をかける。 和「怖い、という表現がそれであってるのかも分からないわ。そうね……あなたは憂を一言で表現する時、どんな言葉を使う?」 投げ掛けられた質問に対する明確な答えを、梓は持ち合わせていなかった。 梓「……それは」 和「怖い、黒い、歪、醜い。私ですらそう揶揄される事があったわ。けど今の澪はそんな私さえも遥かに凌駕してるの」 究極の更に奥。 人知を越えた力を人が目の当たりにした時、その口から紡がれる言葉は讃辞や尊敬の言葉ではない。 酷いほどに冷たく、悲しいほどに黒い言葉だ。 梓「つっ……」 肩に鈍い音が走り、思案に更けていた梓の意識は引き戻される。 和「あの黒いのには私から一言、怖いという言葉を送れるわ。でも澪は……」 和はそこで言葉を区切り、歩き始めた。 和「行くわよ。他の皆とも合流しなきゃ」 指を弾くと雪原に突き刺さっていた光の刃が散り、刀だけが吸い寄せられるように和の手元に舞い込んだ。 梓「…………」 また一瞬だけ空を見上げ、梓は和がつけた足跡を辿ってゆく。 その途中で一際大きな爆発音が鳴り響いたが、それでも梓は振り返らない。 今はただ自分に出来る、やるべき事を成し遂げよう。 せめて今自分の側にいてくれる和の足を引っ張らないように。 梓はそんな想いを抱き、歩き続ける。 澪「なんて力だ……!」 澪はタナトスの口内で必死に耐えていた。 上顎と下顎の圧力は鋼鉄さえも一瞬で砕く威力を持っている。 そんな過酷な状況下を刀のつっかえ棒のみで耐えている澪の力もまた言うまでもないだろう。 澪「……っ!」 喉の奥から不気味な呻き声が鳴り響き、何かがせり上がってくる。 それが砲台だと気付いた澪は瞬時の判断で刀を引き、視覚不可能の速度で後退した。 澪「うわっ──!?」 空へと身を投げ出される直前で下顎の装甲の節目に指を引っ掛けると、手元に強烈な熱が伝わってきた。 爆発音を轟かせながら射出されたそれは極太のレーザーだ。 雲を、雪を焼き払い、地平線の彼方まで突き進むとそれは消えた。 澪「レーザー……なんてちゃちなものじゃなさそうだな。となると……」 自分の目でさえ射出の瞬間を見切れなかった。 となるとこの光線は限り無く光速に近い速度で放たれている。 澪「荷電粒子砲か……。まさか実物を生きてるうちに見られるなんてね」 それは再現可能な理論はあってもそれを起動する為の電力が膨大である為、実用化されなかった架空兵器だ。 タナトスは澪を嘲笑うように不気味な呻き声を漏らしている。 策士の知略、財閥の科学力を総結集して造られた究極の兵器が澪に牙を剥いた。 澪「この……! 暴れるなったら!」 澪はタナトスの腹の部分にしがみつき、振り落とされないよう必死に耐えていた。 タナトスは耳を劈く咆哮を発しながら空中を縦横無尽に旋回している。 澪「まずいな……」 先程から掌を介して冷気を送り続けているのだが一切手応えが無かった。 この過酷な状況下で自由に飛行しているのだ。過度の冷気に対する何らかの防御法は持ち合わせているのだろう。 それだけならまだ良かった。 水氷、冷気を操る力だけが澪の強さではない。 圧倒的な身体能力から放たれる鉄を穿ち、大地を裂く斬撃。 その他にも勝負出来るカードは幾らでもあった。 澪は刀を握る左手に力を込め、装甲の節目の部分を突いた。 澪「やっぱり駄目か……」 まるで暖簾を突いたような不快な手応えが腕に伝わる。 試しに刀をしまい、素手で殴り付けてもそれは同じだった。 澪「うわっ──!?」 タナトスの巨体が急激に揺れ始める。 ドリルのような激しい回転で澪を弾き飛ばそうとしているようだ。 最初の数回転は何とか耐えていた澪だが、片手の、しかも人指し指と中指だけでしがみついていた身体は呆気なく空に投げ出された。 澪「…………」 狼狽することなく意識を研ぎ澄まし、両腕を横に広げる。 すると澪の身体を受け止めるように地上からわき出た水の柱が澪を守った。 水の柱は緩やかに噴出を抑え、澪を地上へと送り届ける。 タナトスは残虐な意志が込められた赤い瞳でその様子を見つめていた。 澪「…………」 向こうに追撃の意志が無いことを悟ると澪は即座にその思考をフルスロットルで回転させる。 敵の全長は一キロメートル強。 その装甲には何らかの防御システム、所謂不可視のバリアのようなものが張られており、こちらの攻撃は完全に防がれる。 攻撃用兵器には荷電粒子砲。或いはそれ以上の兵器が搭載されているかもしれない。 澪「……不透明な点が多過ぎるな」 勝負出来るカードは今のところ一枚も無い。 決着を急ぐのはまだ早計だと判断した澪は暫く見の姿勢を取ることにした。 斎藤「完全自律型駆動兵器タナトス。想像以上の猛威を振るっていますね」 いちご「秋山 澪があそこまでの力を手にしているのも想定外だけどね。まぁそれを踏まえても中々の出来でしょ」 若王子機関本部の中枢。生命の実がなる禁断の樹の元。 そこに斎藤といちごが居た。 十メートル足らずほどの高さの樹の上部には鉄の杭で胸を穿たれた唯がはりつけられている。 その根元で蔦に絡まっているいちごは外の様子を映像化しているモニターを見てくすりと笑った。 いちご「まぁ三十分持てば良い方かな」 斎藤「では標的を殲滅し次第タナトスをこちらに戻しますか?」 いちご「いや……」 いちごは言葉を区切り、身体を捩らせた。 頬をうっすらと赤く色付いており、はだけた衣服の間から見える柔肌には汗が伝っている。 いちご「タナトスじゃああの子は食い止められないよ。多分あのアンチエネルギーフィールドの穴も見破られるだろうし」 斎藤「し、しかし……。あれの穴を看破したところで破る手段など……」 いちご「成るように成るんじゃない? どの道あれは試作品だし、大した愛着も無いよ」 狼狽する斎藤に対していちごはぴしゃりと言い放った。 肩を震わせながら甘い吐息を漏らし、糸が切れた人形のように頭を下げた。 いちご「分かったら……席を外して貰える? 持ち場は、んっ……第五研究室で良いから」 いちごは苦しそうではあるもののどこか恍惚とした表情を浮かべている。 斎藤「しかしエネルギーの抽出が終わるまでは此所ががら空きに……」 いちご「良いから」 有無を言わせぬきつい目付きに斎藤は思わずたじろいだ。 斎藤「…………」 いちご「早く行って。恥ずかしいよ……」 絡まる蔦が身体を這い、その度に甘い声を漏らすその姿は、いたいけな少女が凌辱されているようにも見える。 後藤がこの場に居ればきっと目を細めて下卑た笑みを浮かべるだろう。 そんな事を考えながら斎藤は部屋を後にした。 いちご「んっ……」 眉を顰め、襲い来る快楽の並に耐えていたいちごだが斎藤が去った事によってその理性は崩壊した。 全身から汗がどっと吹き出て、漏れる嬌声の音も大きくなる。 いちご「やっ……あんっ……そこは……っ」 身体を締め付ける蔦の力が強くなり、一層激しく動く蔦は遂にはいちごの秘部に潜り込もうとしていた。 膝ががくがく震え、下腹部がじんわり熱くなる。 いちご「駄目……だよ……おかしくなっちゃう……っ!」 歪に歪んでゆくいちごの頭上で唯は安らかに眠っていた。 いちごの太股を伝って零れた愛液に、穿たれた唯の胸から滴り落ちた血が交ざり合う。 和と梓はひたすら駆けていた。 後ろを振り返ることなく、ただ眼前に迫る敵の本拠地に向かって。 和「多分皆もあそこに向かってる筈よ。先に入口を突破して中を掻き乱すわよ」 梓「はい!」 走りながら制服の袖口、首から下を覆う耐寒スーツの下から銃器の部品を取り出し、即座に組み立ててゆく。 その一連の動作に一切の無駄は無い。 その道を知る者ならばそれを見てただ溜め息をつくだろう。 和はそれを横目で捉えて薄く微笑むと、桜花を勢い良く鞘から抜いた。 桜花に光が収束し、巨大な剣を形成する。 目標は数十歩先の反り立つ塀。 和は渾身の力を込めて光の刃を塀に叩き付けた。 梓「凄い……!」 梓は感嘆し、頬を弛める。 ほんの一瞬だけ気を緩めた梓の首を和が掴みあげた。 和「油断しないの!」 そのまま大きく跳躍し、瓦礫と化した塀を飛び越える。 目まぐるしく動く視界の中で梓が見たのは、つい先程まで自分達が居た場所に放たれた一筋の炎だった。 炎は一瞬で雪を溶かし、熱風を撒き散らして辺りの風を食い荒らす。 「つーかよぉ……」 やけに間延びした声が和達の前方から聞こえた。 粉塵と雪が入り交じって視界が混濁しているが、何かが来ている事は分かる。 「もうすぐ一生働かずに旅する資金が貯まるってのに、どうしてこうも面倒事が多いかね?」 粉塵の先の男が腕を振るうと、熱風が粉塵を吹き飛ばした。 和「後藤……?」 和は今対峙している男が先日画像で見た男とその容姿が一致している事に気付く。 後藤「気安く呼び捨てにしてんじゃねーぞ。後藤『様』だ、豚が」 後藤が翳した掌に赤い光が収束してゆく。 何か来る。 それを肌で感じた和は梓を突き飛ばして自分も大きく転がった。 そのすぐ隣を真紅の炎が駆け抜けてゆく。 後藤「へぇ。そっちのロリな嬢ちゃんはぼんくらだが、お前は中々楽しめそうじゃん?」 後藤は無言の怒りを込めて放たれた梓の弾丸をまるでピーナッツでもキャッチするかのように掴み取る。 和「……女帝の前で道化となって媚びるのは誰なのかしらね」 後藤「おー怖いねぇ……。媚びたところで一切容赦しねーのが女王様なんだろ?」 目を細め、下卑た笑みを浮かべる後藤。 対峙する敵をゴミ屑のように見下す和。 そしてその和に寄り添い、明確な意志を胸に抱いた梓。 たった今、一つの戦いの火蓋は切られた。 例えば同じ力同士がぶつかりあったとする。 責めぎ合う二つの力の優劣を決めるのは、均衡を崩すのは一体何だろうか。 相殺することもなく責めぎ合う二つの力が完全に同じものだとしても、その均衡は永遠に続く筈も無い。 澪「はぁ……はぁっ……」 雪原で暴れ回るタナトスの体躯を擦り抜けるように、澪はひたすら駆け回っていた。 どんな技や力を以てしても傷一つつけられないタナトスの防御力に、澪は成す術がなかった。 澪「きゃっ──」 雪に足を取られて盛大に転ぶ。 幸いタナトスがその隙を突くことは無かったが、自分の体力が確実に削られてきていることが澪を焦燥感に駆らせた。 澪の攻撃がタナトスに通用しないのと同じように、タナトスの攻撃も澪には通用しない。 大き過ぎる身体から繰り出される攻撃は範囲こそ広いが動作が緩慢だ。 最悪被弾したところで闘気を纏っておけば死にはしない。 唯一殺傷能力があるのは荷電粒子砲だが、それもエネルギーの収束を察知すれば容易く躱せる。 澪「…………」 しかしそれはあくまで澪が健全な状態を保つ事が出来ればの話だ。 どれだけ鍛えたところで人間の身体は永劫機関ではない。 ましてや足に纏わりつく雪、視界を遮る吹雪。 この場は体力の減少を促す条件に満ち溢れた環境なのだ。 再びタナトスの口内から砲台がせり上がり、光が集束してゆく。 澪は咄嗟にタナトスの顎の下へと潜り込み、荷電粒子砲の攻撃範囲外へ身を潜めた。 澪「う……ぐぅ……!」 大気中を流れる水分を一点に集めて瞬時に凝固させるが、砲台のほぼ真下という位置に襲い来る余波は尋常なものではない。 氷の壁が音を立てて崩れると同時に、澪は衝撃を殺す意味も兼ねて大仰に飛び退いた。 澪「……?」 何かがおかしい。 地球の磁場の影響を受けて軌道を曲げてゆく粒子砲を眺めながら、澪は思った。 何もおかしくなどない筈なのに、そもそも自分が今こうして苦戦している事すら何かおかしく思える。 澪「はっ!」 下半身に力を込め、身体全体を上手く利用した一閃を宙に放つ。 するとその直後、その剣撃に呼応したかのように降り積もった大量の雪が舞い上がり、雪崩と化してタナトスを飲み込んでゆく。 全長一キロメートル強、その気になれば空母ですら易々と食い尽くしてしまうであろう巨体が自然の猛威に飲み込まれていった。 澪「一点集中型の荷電粒子砲……。全身を覆う不可視のバリア……」 雪崩がタナトスを覆い、雪山を作り上げた。 山の内部に閉じ込められたタナトスはぴくりとも動かない。 吹き荒れる吹雪の音だけが響く清閑としたその場所の中央で、澪はうわ言のように何かを呟いていた。 澪「……こいつ。私を殺す気が無いのか?」 得体も知れない猜疑心は澪の思考を本来ならば辿り着かないような答へと導いた。 殺す気が無い、という表現には語弊がある。 ただ荷電粒子砲という空想科学兵器を現実のものとしたその攻撃力を持ちながら、何故この竜には他にもっと手っ取り早い、例えば広範囲を巻き込む爆弾の類のものを搭載していないのか。 そんな疑問が殺す気が無いという判断を暫定的に下させたのだ。 澪「……っ!」 澪が思案に更けている間に雪原が大きく揺れ始めた。 まだ終わりではない。 黒い夢、タナトスは標的を殲滅するまではその純然たる殺意を絶やしたりはしないのだ。 耳を劈く咆哮と共に大気が震える。 殺戮の権化は大量の雪と純然たる殺意を撒き散らした。 澪「……確率は五分五分。もう一つくらい確証が欲しいところだな」 その殺意に物怖じすることなく悠然と立ち向かうのは水氷の女王。 澪は見の姿勢を取り続けて洞察したタナトスの動向から、その鉄壁の致命的な穴を見出したのだ。 澪「他にそれらしいところ……。尚且つ私が斬ってないところは……」 大きく後ろに跳躍し、タナトスの全体を見渡す。 そして該当する箇所を瞬時に把握した澪は、刀の柄を握る力を強めた。 読みが外れていれば十中八九即死だろう。 それでも澪は、見出した一縷の活路を強く見据えた。 22
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VIPミニ四駆スレ的マシン解説 【基本データ】 ●全長152mm ●全幅92mm ●Item No:18627 ●価格2000円(税込) ●2019年発売 【本体内容】 アバンテ Mk.III ネロのTAMIYA×ツエーゲン金沢コラボモデル。 シャーシはブラックのMS。N-02ユニット、軽量センターシャーシ、T-01ユニットの組み合わせ。 ホイールはPRO後期標準の大径ホイール(蛍光イエロー)。 ボディの成型色は黒。 その名の通りツエーゲン金沢のキャラクター「ヤサガラス」風のデザインになったステッカーが付属する。 【漫画、アニメでの活躍】 【VIP内での評価】 【公式ページ】 http //www.zweigen-kanazawa.jp/event/190519_collab.html http //www.zweigen-kanazawa.jp/news/p3311.html 【備考】 キット内容は、まぁ、ステッカー以外はノーマルと一緒だw
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律が目を覚ますとそこは見知らぬ部屋だった。 こじんまりとした空間にはテーブルとベッドとテレビ、それに小さめのコンポやノートパソコン等の娯楽の道具が幾つか置かれている。 ありふれた若者の部屋。悪く言えば没個性的。律はそんな印象を覚えた。 「おはよう」 柔和な声が聞こえたと同時に律は自身は喉元に注視した。 鈍色の刃が律の首に触れて妖しく輝く。 切っ先から柄までは視線でなぞり、その先に目をやるとそこには恵が居た。 恵「よく眠れた?」 律「目覚めは最悪ですけどね」 押し当てられた刃を拒絶する事はなく、律は皮肉な呟きを放った。 恵を見据えるその瞳には敵意しか無い。 恵「五体満足でいられただけでも感謝して欲しいんだけどな。まぁそれもこれ以上暴れるつもりなら解らないけど」 脅し文句としては充分だった。 闘気を開花させている者とそうでない者の力量の差など言うまでも無い。 互いに敵同士と認識している状態で恵が律に負ける道理などありはしないのだ。 律「……負けました」 恵「ん、よろしい」 刺すような恵の視線は一変し、一歩身を退く優しい先輩の表情になる。 恵は何故律が自分を襲ったのか、何故わざわざ長期休暇でもないこの時期にここまで来たのか、思う事はあったがなにも聞かなかった。 ただ一言お腹空いたでしょ? と言ってコンビニのレジ袋を律に手渡す。 中には菓子パンと紙パックの牛乳が入っていた。 律「…………」 律は無言で菓子パンに齧りつき、作業のような食事に入った。 対して恵は律が居ないもののように振る舞い、テレビのチャンネルを回す。 一回りした辺りでバラエティ番組が放送されている局で手が止まったが、大して興味も無いのだろう。つまらなそうにテレビを切るとベッドに腰掛けた。 形容しがたい不自然な沈黙が流れた。 黙っている事が苦手な律にとって今の状況は苦痛でしかない。 そんな彼女が沈黙を破るきっかけを作るのは不自然なほどに自然だった。 そう。それすらも見透かされているかのように。 律「何で何も聞かないんです?」 造られた日常、均衡が破られる。 律の言葉に恵は妖しく目を細めて微笑んだ。 恵「聞いたら答えてくれるの?」 自分を試すような口振りに律は気味悪さを感じていた。 だが律は退くわけにはいかなかった。 間違った選択肢を選んだ親友を在るべき場所に戻す為にも。 律「単刀直入に言います、私と一緒に桜高に来てください」 恵の表情は崩れない。 恵「会話が噛み合ってないわね」 律「噛み合わせますよ。拒否は許さないし、のんびりしてる余裕も無いんです。これで聞きたい事は無くなったんじゃないですか?」 気が急いている。それが恵が抱いた印象だった。 確かに律が言った通りならば無謀な武力行使に打って出たのも頷ける。 ただあまりにも無計画過ぎやしないだろうか。 仕種も挙動不審な点が多いし相手に理解させる気すらも疑わしいほどに言動も支離滅裂だ。 仮にも桜高軽音部を束ねる彼女をそこまで焦らせるものは…… 恵「……澪ちゃんね」 恵は呆れたように大きく溜め息を吐いた。 まるでこうなる事に気付いていたかのようなその態度に、律は一瞬眉を顰めた。 律「……分かってるなら話は早いや。澪をまた元の──」 恵「無理よ」 聞く気など最初から無かったのだろう。 恵はあまりにも無情に、律の嘆願を拒絶する。 恵「あの子は全てを置き去りにする覚悟を以て強くなった。力だけ手にして元に戻して下さい、じゃああまりにも虫が良過ぎると思わない?」 律は何も言い返せなかった。 逆恨みに過ぎないと分かっていたのに、いざ恵を目の前にすると自分がやっている事の不条理さが律には歯痒かった。 恵「それに今更澪ちゃんに何をしたって変わらないわよ。きっとあの子自身、私達に何も望んでないでしょうしね」 全てを理解したような達観した物言いは律の怒りの琴線に触れた。 一秒と経たない内に律は恵をベッドに押し倒し、胸倉を掴む。 ぎりぎりと噛み締めた唇から血が流れた。 律「……ふざけんなよ。なに澪の事全て知ってますみたいな面してんだよ……」 恵「気に食わなかった? でもりっちゃんよりかは知ってるかもよ?」 律の無礼を歯牙にもかけず、恵は自分に跨がる律の頬を撫でた。 律「私達はずっと一緒だったんだ。あいつが今辛い想いをしてる事なんて見ただけで分かんだよ!!」 恵「そんなの思い上がりよ。なら貴女はあの子の唇の味を知ってるの? 肌の冷たさを知ってるの? ココの熱さを知ってるの?」 にんまりと口角を歪めながら、恵は短いスカートを嫌らしい手つきでたくしあげた。 律はそれを見て嫌悪感よりも強烈な悲壮感を覚えた。 自分の中で何かが壊れる音がして、律は目を見開く。 恵「私は知ってるわよ。そして全て解った上で言ってるの。あの子はもう無理だって」 観念と欲の狭間で揺らぐ律を叩き付けるのは無慈悲な言葉だった。 恵「最後に言った筈なんだけどね。決して『道』を間違えないようにって」 そして彼女は頷いたのだ。 だが道を見誤った。どれだけ強くなっても付き纏ってくる心の揺らぎに負けて。 律「なんでだよ……」 恵を押さえ付ける腕をだらりと下げ、律は放心気味に呟く。 律「なんで……。何でそこまで解ってたのに止めてくれなかったんだよ……」 恵「あの子がそれを望んだからよ」 貫徹して余裕を保っていた恵の表情が初めて揺らいだ。 恵「私にとって澪ちゃんが白と言えば黒いものも白なの。たとえそれが間違ってると解っててもね」 律「分かんねぇ! 分かんねぇよ! 間違ってるって分かってんなら何で……」 ぎりぎりと歯を食いしばり、怒りを露にするが、律は恵の顔を真面に見ていられなかった。 澪を盲信するあまりに自分の意志を失った者。 恵も、この物語の被害者なのだ。 恵「好きだから。それ以外に理由はいる?」 律は何も言えなかった。 むしろそれだけあれば充分だという事は彼女も解っていたから。 どれだけ醜く歪もうとも、愛情に勝る感情など存在しない。 半ば茫然自失となった律は不可解なものを見るような目で恵を一瞥し、ふらふらと身を退く。 律「じゃあせめて……」 逃げ出したくなる気持ちを堪え、律はか細い声で呟いた。 律「私にも澪と同じように、あの化け物染みた力をくれよ……」 恵は乱れた衣服を整え、のっぺりとした笑みを浮かべて言った。 恵「駄目よ。りっちゃんにはあの子ほどセンス無いもの。それにむざむざ暗い道を行く必要も無いでしょ?」 手放しで澪を暗い道に放った事に対する矛盾。 或いはそれすらも必然だと、律にはそう思えた。 律「……さいですか」 聳え立つ巨岩を砕く為に平手で岩を打つような無為の虚しさを抱きながら、律は黒の外套を頭まですっぽりと被る。 恵「もう行っちゃうの? まだ雨強いけど……」 律「はい、もうここに居ても意味無いし」 ぶっきらぼうに言って律はもう一度だけ恵の方へと向き直った。 あまりにも勝手な物語の犠牲となった確固たる意志の残滓。 有り得たかも知れない自分と、自分を取り巻く者の末路に目を背けないように。 そして自分の末路を隠さぬように、恵も律から目を逸らさなかった。 静寂を崩さぬまま律は再び恵に背を向けた。 恵「待って」 だがドアに手をかけようとしたその矢先、恵が引き止める。 律は振り向かないまま足を止めた。 恵「貴女の目には今の私はどう映ってた? そっち側の感想が聞いてみたいな」 一瞬だけ律の心臓が跳ねた。 考えなくとも直感で分かる。恐らくここが自分という存在を物語に介入させるか否か、最後の分岐点である事が。 歪な因果の外の平穏な日常を享受するか。どれだけの苦難が待っていようとも、物語の真実を目指すか。 律は大きく息を吸い、吐き捨てるように言った。 律「退屈そうですね」 扉が開き、そして閉まる音が部屋の中に木霊した。 一人残された恵にはそれが全ての終わりを知らせる音のような気がして、ほんの少し胸が締め付けられる。 恵「さて、と……」 物語の終わりの後に訪れるのは毒にも薬にもならない日常。 非日常の渦中に居た過去の思い出はゆっくりと、自分自身も気付かぬように色褪せて消えてゆくのだろう。 だがそれで良いのだ。恵はそう一人ごちて窓から外を見下ろした。 片側二車線の広い道路を大型のネイキッドバイクが自己の存在を主張するように荒れた蛇行運転をしている。 恵「危なっかしいなぁ」 たとえばあのバイクに跨がる青年、或いは少女。はたまた老人かもしれない。名前も知らないあの運転手のように日常から非日常を求める人間が居る中で、既に非日常を否定した自分が物語に居座るのはあまりにも図々しいのではないか。 恵「……これで良かったんだよね」 新しく物語に介入する者の為に綺麗な椅子を空けておこう。 恵はそれを矜持として、確かめるように何度も何度も呟いた。 完全下校時刻を過ぎた桜高校舎。 その内の人が居る筈のない空き教室に艶めいた喘ぎ声が響いていた。 「あっ……。あっ……。あっ……」 声からは生気すら抜けきっており、やつれてはいるものの辱めを受ける妖しい声色は隠しきれない。 文恵「ねぇ、今どんな気持ち? こんなみっともない格好でお露垂れ流してるの見られてるわけだけど」 「ごめんなさい……っ。もう許してぐださい……っ!」 彼女はこんな諍いに巻き込まれるような人間ではなかった。 外の世界ではいざ知らず、桜高という狭い無法地帯の中では彼女は何の特異性も持たない没個性的な生徒だった。 そんな彼女が凌辱の闇に囚われたのは突然だった。 辻斬りの少女に接触された時、彼女は再起不能を覚悟した。 だが彼女を待っていたのは再起不能などという生易しい地獄ではない。 文恵「あははっ、謝られても何て答えたら良いか解んないよ。貴女悪い事なーんにもしてないじゃん」 全裸に剥かれ、四つん這いの体勢で無理矢理秘部を刺激され続ける。 一体この時間はどれだけ続くのだろうか、少女はそれすらも考えられなくなっていた。 文恵「でも悪い事したと思ってるんならお仕置してあげないとね。あはっ、私ったら優しー」 「ひっ──!?」 直後、自分を辱める指が秘部の突起を摘んだ。 襲い来るのは単純な快感ではなく、鋭い痛みを伴う快楽だった。 「やだあああっ! 摘まないで、痛い痛い痛い──っ!!」 文恵「暴れちゃ駄目だよ、最初に言ったよね?」 極上の愉悦を噛み締めるように文恵は口角を歪めた。 そして空いた手を少女の背中に向けて振り下ろす。 その手に握られたものが窓から差し込む月明りに照らされ、鋭く輝いた。 「いぎっ──!?」 背中を貫く痛みに少女は短い悲鳴を漏らした。 絹のような肌には千枚通しが深々と刺さっており、薄く血が伝っている。 文恵「動くなって言ってんじゃん」 反射による制御不能な身体の動きすら文恵は許さない。 抜いては刺し、抜いては刺しを繰り返し、時折肌に深く刺さった千枚通しを肉を抉るように押し込む。 「──っ! ──っ!」 少女は両手で口を抑え、悲鳴を殺して痛みに堪える。 両面からは大粒の涙が零れ落ち、全身には嫌な汗が滲んでいた。 文恵「へぇ、結構我慢強いんだね。カッコいいじゃんソーユーノ」 赤く染まった千枚通しを放り投げ、文恵は少女の顎を背後から掴んで海老反りにさせた。 だがそれは先程までのような痛みを与える為の乱暴な動作ではない。 「えっ……?」 傷口をなぞるくすぐったい感覚に少女は恐る恐る首だけを後ろに回した。 文恵「ん……」 文恵は無数の傷口から流れる血を愛しそうに舐めていた。 予測の範疇を越えた文恵の行動に少女の顔は強張る。 呆然とした少女の瞳と文恵の瞳が交錯した。 文恵「またやっちゃった……。やっぱ私って駄目だなぁ」 自身の咎を拭うように文恵は傷口を優しく撫でる。 文恵「ごめんね? こんな酷い事しちゃって。許してはくれないよね……」 文恵の瞳が潤む。 少女の頬を撫でると、赤い罪の色が細い指から頬に伝わった。 「っ! 許します! 許しますから……」 許せるはずもない。だがそんな憎しみの感情よりも今は直ぐにこの場から離れたい気持ちで一杯だった。 文恵「ほんと? 怒ってない?」 あまりにも無神経な文恵の発言に少女は苛立ちを通り越し、呆れすら感じていた。 感情を押し殺し、首を縦に振る。文恵の表情がぱぁっと晴れてゆくのが見えた。 文恵「じゃあもう帰って良いよ。飽きちゃった」 「え──?」 少女は身体が押し上げられ、宙に浮くのを感じた。 直後、腹部に突き刺さる鈍痛と身体が壊れる感覚が少女を支配する。 文恵「あっはははっ! 風邪引かないようにねぇ!」 文恵の足が少女の腹部に捩じ込まれていた。 肋骨が折れたなどというレベルではない。 身体の中で骨が原型を保てぬ程に打ち砕かれているのだ。 当然そんな規模のダメージを受けて臓器が無事である筈もない。 解りやすく例えるならば一般人がダンプカーに撥ねられたようなものだ。 少女の身体は教室の窓を破り、三階の高さから外に投げ出された。 墜ちゆく絶望に満ちた表情は文恵に何の罪悪感も与えない。 むしろ彼女にとって他者の絶望は辻斬りという自分のアイデンティティーを保つ上で必要不可欠なものであり、この上ない愉悦であった。 「救いようのないクズね」 冷めたような声が文恵の背後で響いた。 愉悦の余韻を残したまま文恵が振り返ると、古びた椅子に腰掛ける風子が居た。 文恵「私は自分がやりたい事を素直に実行してるだけだもん。私から見たら余計な気遣って生きてるそっちの方が哀れだよ」 風子が嘲るように鼻で笑うと、文恵が露骨に表情を歪めた。 衝突は無い。歪な均衡が二人の間で保たれている。 文恵「それにそっちの気がある子の気持ちも知りたいしね。これから必要でしょ?」 風子「苛めたいだけでしょ」 文恵「まぁそうだけど」 開き直ってブレザーを脱ぎ、ブラウスのタイを緩めて僅かに汗ばんだ身体に風を通す。 風子「……同じ自由奔放主義でもどうしてこうも差が出るものなのかな」 風子は視線を滑らせ、教室の入口を見た。 そこに立ち尽くす少女は気怠そうに欠伸をしている。 「違いはあれど差は無いんじゃないですか? ここまでクズだと逆に見てて気持ち良いですし」 からからと笑い、少女は真新しい血痕が残る床をじっと見据えた。 文恵「二人してクズクズ言わないでよ。まるで私がクズみたいじゃん」 風子「それこそ本気で言ってるなら抱き締めたくなるくらい哀れよね」 「まぁまぁ、面白ければ全て良しですよ。私は好きですよこういうの」 少女が笑い、風子が頭を抱える。 風子「……お願いだから興味本位で裏切ったりなんかしないでよ。なんだか二人揃ってやりかねないわね」 問題無いです、と少女は胸を叩き、風子の前へと躍り出た。 純「『夢幻』鈴木 純。モットーは面白きことなき世を面白く。こんな愉快な面子を裏切ったりなんかはしませんよ」 歪な平穏は静かに崩壊していった。物語は再び加速する 梓「博物館が全焼だってさ」 純「どこの?」 梓「フランス」 歯切れも悪く、悶々とした会話が続く。 普段ならば意識しなくとも他愛ない話で何十分と潰す事が出来るのだが今はそれも敵わない。 退屈な時に限って時間が長く感じるのは昔の人間も今の人間も変わらない、普遍の感性だ。 梓「……もう今日は帰って良いんじゃないかな」 純「完全下校時刻が過ぎない内に帰ったら次の日が酷いんだよ。覚えときなよ」 それを聞いて梓の表情が引きつった。 あの自由奔放な純が生徒会、つまり和の言う事をここまで素直に聞いているのがおかしかったからだ。 梓「ちなみにそれ破ったらどう酷いの?」 純「部外者が居るところで話せないよ。もしあの人の耳に入ったらほんとに酷いんだって!」 授業は終了したとはいえ教室内にはまだ生徒が数人残っている。 梓は苦笑いすると携帯電話のニュースサイトを閉じ、だらりと椅子の背もたれに身を委ねた。 梓「…………」 純「…………」 再び会話が途切れた。 この居心地の悪い静寂は二人に三人で居た時の事を連想させる。 人類最強の彼女が今ここに居たのならばきっとこんな空気を味わう必要も無かっただろう。 禍々しい毒のような闘気を持ちながらにして彼女の人格は例えるならば聖母のようだった。 誰よりも他者を慮り、間を取り持つ事に関しては天性の才能を持っていた。 梓「…………」 梓は気持ちがネガティブな方向に進んでゆくのを感じた。 恐らく純も同じなのだろうと思い、脇目で純の顔を捉えたのだが……。 純「…………」 彼女は違った。 目は険しく、一見隙だらけの体勢もよく見れば直ぐに臨戦体勢に移れるようになっていた。 梓「純……?」 純「しっ」 梓は咎められて初めて異変に気付いた。 太股に吊ったホルスターに手をかけると鉄の冷たさが指を伝う。 梓「これってちょっと不味いんじゃないかな……」 純「少なくとも六人は再起不能になるだろうね」 純と梓を除いて今この教室に居る生徒の人数は六。つまりはそういう事だ。 生徒達の談笑が響く中で耳を澄ませば聞こえてくる。 爛々と眼を光らせて歩み寄る辻斬りの足音が。 梓「……っ」 梓の表情が一変して険しくなる。 太股に吊ってあるホルスターではなく机に手を手を突っ込み、グリップに小粒な宝石が光るショットガンを抜いた。 純「それもハンドメイド?」 梓「まぁね」 伸ばした手に握られているのはショットガン。 その飛散する殺戮の母体は窓に顔を向けている 引き金を引くと同時に耳を劈く銃声が鳴り響いた。 硝子が飛び散る音、生徒達の悲鳴。 銃声を皮斬りに始まった狂想曲は最初からピークを迎える。 梓「……関係ない人を巻き込むことないんじゃないです?」 ぎりぎりと奥歯を噛み締め、迫る辻斬りの恐怖に備える。 だがそれは逆に自分の無力を実感させられる事になった。 文恵「何の事かな?」 可愛らしい声と共に梓の首を絡めとるように細い腕が巻き付く。 殺傷目的ではないのは明らかだった。 かと言って友人同士のよくある馴れ合いでもない、一線を越えた感情から来る慈愛に満ちた何かが感じられた。 文恵の行動は狂想曲を彩る休符を打った。 一瞬で静まり返る教室。次いで響いたのは驚愕ではなく恐怖の悲鳴だった。 「きゃああああっ──!?」 生徒達は文恵の姿を認識した瞬間、世界の終わりが訪れたかのように焦燥し、逃げ惑う。 荷物も尊厳も投げ捨て、なりふり構わずに恐怖から逃れようとするその姿は弾圧される奴隷の様だ。 文恵「ここまで露骨に避けられたら……。逆に追いかけたくなっちゃうよねぇ」 粘っこい蜜のような声と笑み。 梓の脳内に最悪のイメージが過ぎる。 認知、思考、打算。全てを凌駕して梓は反射的にショットガンの引き金を引いた。筈だった。 梓「え……?」 絞った人指し指が空を切る。 手に持っていた筈の得物がどこにも無い。 それに気付くにはあまりにも遅過ぎた。 文恵「だぁめだよ? 人に向けて撃つような玩具じゃないんだから」 片手間で梓のショットガンを弄びながら、文恵は更に目を細め、舌を出して笑った。 梓「くっ……。純っ!」 また純に頼るしかないのか、自分の無力さが歯痒かったが梓にそんな事を気にする余裕は無かった。 今文恵を抑制出来る可能性が高いのは純だけだ。 だが呼び掛けに対する合いの手は無い。 それどころか直ぐ側に居た筈の純は影も残さずに去り失せていたのだ。 梓「純……?」 文恵「あはっ、お友達はどうしても私と一緒に居たくないみたいだね」 猫撫で声で言うと文恵は奪い取った銃を梓に返す。 文恵「梓ちゃんは、どうなのかな?」 解らなかった。 自分を好きだと言った文恵。 普通が欲しいと嘆願した文恵。 人を斬る愉悦に浸る文恵。 その中のどれが本当の木村 文恵なのか、梓には解らない。 解らないものを好きになる事も嫌いになる事も出来やしないのだ。 梓「私には……。分かりません」 ショットガンの銃口がまだ割れていない窓に向けられた。 刹那、噴き出した銃口から闘いの狼煙が上げられる。 梓「だから値踏みさせてもらいます。貴女がこちら側の信頼に足る人物かどうかを」 砕けた硝子越しに幾重にも重なった殺意が滲み出す。 凡そ一クラス分の人数だろうか、少女達はそれぞれ得物を携え、臨戦体勢に入っていた。 梓「恐らく私というより生徒会に対する宣戦布告でしょうね。知った顔も何人かいますし私一人じゃあ手に負えないでしょう」 残虐性で名を轟かす者、単純な戦闘能力で名を轟かす者、敵を欺く狡猾な知性で名を轟かす者。 本質こそ大きく事なれど序列五十位以内の強者もちらほら見受けられる。 梓「貴女はどう動きます?」 梓の問いに対して文恵は不敵に微笑んでみせた。 そして腰に携えた刀を抜き、洗練された戦闘集団に切っ先を向ける。 文恵「ふふっ、梓ちゃんの仰せのままに」 とん、と床を蹴る音と共に文恵の姿が消えた。 「──っ!?」 集団の中の一人が自分達の過ちに気付く。 瞬時に消え、自分達の陣形を内面から崩すように現れたこの少女は……。 「辻ぎ──っ!?」 少女が恐怖の名を紡ぐよりも速く、文恵は刀の柄を口内に捩じ込ませた。 砕けた歯、口内を満たす鉄の味を感じる前に少女は胸を拳で打たれて昏倒する。 流れゆくスローな景観の中で文恵が捉えたのは雪崩のように襲い来る人の群だった。 文恵「良いね。興奮しちゃうよ」 正面から鉈を持って襲いかかる少女を袈裟斬りで一蹴し、素早く持ち替えて脇の下から居抜くように後方へ一突き。 「かはっ──」 真後ろで人が倒れる音を聞いて文恵は頬を緩めた。 並み居る人の群の中から文恵を挟むように二人飛び出した。 二人が携えた刀は文恵の首筋目掛けて加速する。 丸腰の文恵がただ立ち尽くすのを見て二人は勝利を確信した。 だがその確信が幻想と化すのは至極当然の事だった。 文恵「ひゅー……。ちょっと焦った」 両手を交差させ、二本の刀をそれぞれ二本の指で挟んで止める。すると鋭利な刃が瞬く間に溶け始めた。 「これは……?」 「熱!?」 その力の本質は闘気の道に聡くない二人にも理解出来た。 概念をも具現化させる力が文恵にはあったから。 文恵「私を倒したきゃ核でも持ってこないとね!」 文恵は背後で膝を付いた少女の身体から刀を抜き、大きく振りかぶった。 梓「──っ!」 一歩退いて戦況を見ていた梓は真っ先に危険に気付いた。 教室の端まで一気に身を引き、襲い来る熱波に備える。 刹那、文恵の一振りは紅蓮の炎を撒き散らした。 途端に教室内は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。 僅かに炎に掠められた自身の前髪を弄りながら、梓は錬獄の向こうの影を見据えた。 梓「規格外……ですね」 純「なんか色々人間辞めちゃってますねこれ」 風子「お互い様でしょ。私から見たら貴女も充分終わってるわよ」 高みの見物を決め込んでいるのは純と風子の二人。 丁度梓が居る校舎の向かいの棟の屋上。かつて和と純が憂を止めようと闘った場所だ。 風子「しかも貴女はあの子と違って明確な目標も無く動いてる。質の悪さで言ったら貴女の方が上よ」 眼鏡の奥の眼は険しく吊り上がっている。 純「……あんまり友好的じゃないですね。もしかして私居ない方が良かったですか?」 純は手摺から身を乗り出し、風子に背を向けたまま呟いた。 35
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律「……んん」 重たい瞼を擦りながら起き上がると、そこは街灯の光など一縷も入らない深い森の中だった。 律「うわっ!?」 目の前には赤々と燃える焚火。その向こう側で炎に照らされた野暮ったい顔に律は心臓を跳ね上がらせた。 「……ビビり過ぎだろ。俺は幽霊かっての」 青年は据わった目で律を一瞥し、缶ビールに口を付ける。 既に何本か空けているのだろう。酒気を帯びた吐息は律を不快にさせた。 律「……酒臭いよおっさん」 「直ちにおにーさんに訂正しろ。さもねーとこの山ん中に捨ててくぞ」 言いつつも青年はさほど気にしてはいないようで、焚火に当てられて焼ける何かの様子をしきりに気にしている。 「うっし。そろそろ頃合だな」 竹串に刺された魚が香ばしく焼けていた。 内臓は取り除かれているもののその技は明らかに素人のそれであり、見てくれは食欲が失せるほどに不格好だ。 律「? なにそれ」 「魚だよ見りゃわかんだろ。ほら食えよ」 辛うじて原型は保っているが差し出されてはいそうですか、と食べられるようなものではない。 だが青年は眉間に皺を寄せる律に強引に突き出す。 「ほら食えって、ほら!」 律「分かった分かった! 食うからちょっと引っ込めよ!」 警戒心も済し崩しに、律は見ず知らずのこの青年の空気に飲まれていた。 そして青年も同様、普通ならば喧嘩を吹っ掛けてきた者などその場に捨て置くのだがそうしなかった。何故ならば……。 (コイツ馬鹿そうだな……) 律(コイツ馬鹿っぽいな……) 互いが互いに相手の事を腹の中で軽く見ていたからだ。 馬鹿が馬鹿を馬鹿と蔑む。傍から見ていてこれほど滑稽な状況は無いだろう。 閑話休題。 自然の中の会食を終え、青年は生い茂る草木の中大の字に寝そべった。 服が汚れる事を厭わないずぼらな性格なのか、はたまた寝る場所に拘る余裕が無いほど疲れていたのか。 恐らく前者だろうと考えながら、律は山道に似つかわしくない大型のバイクに目をやる。 律「……時代錯誤も良いとこだなこれ。こんな荷物積んで何処に行くつもりだったんだ?」 ハンドルに吊ってある革のバッグの中からはコップや皿などの日用品が見え隠れしていた。 「アテの無い旅ってやつさ。いつ止めるかも決めてねーし何をするかも決めてねーよ」 律「ふぅん……」 気障ったらしい喋り方が耳に残る。 ぞわりと首筋を這うような感覚を紛らす為に薄汚れたマグカップに注がれたコーヒーを舐めるように飲むと、味気無い苦味が口の中に広がった。 律「にがい……」 だが不快な苦味は頭の靄を晴らすには丁度良い。 破り捨てられた願い。否定された想い。突如現れた青年。物語の分岐点。 ごった返しとなっていた頭の中が徐々に整理されてゆくがやるべき事、物語の模範回答は解らない。 龍の力を欲したあの少女ならば、全ての解答が解るのだろうか。 「そう言うお前はなんだってこんなとこに来たんだ? 桜高っつったら電車でお出かけでもって距離じゃねーだろ此処は」 律「私は……」 言いかけて口を閉ざした。 話したところで何も変わりはしない。だがだからこそ此処に来た理由、自分の想いをさらけ出す事に抵抗があった。 「…………?」 青年は訝るが問い詰めようとはしない。 上体を起こし、脇に置いてあった煙草に火を点けると紫煙を空に吐き出した。 律「知りたい?」 「うんにゃ、ぶっちゃけ大して興味ねーわ」 律「よし、じゃあ話すわ」 「何でだよ!?」 きっと下らないと一蹴されることだろう。 それが解っていればどれだけ重い気持ちも笑い種にして打ち明けられそうだから。 だから律は、話す事にした。 律「何なら聞き流しても良いよ。子供の戯言だと思ってくれないかな、後藤さん」 「……お前、あの時のガキ共の一人か」 後藤は南極で心の臓を貫かれたのを思い出す。 実際には僅かに逸れていて九死に一生を得たのだが。 自分の夢を踏み越えて進んで行った者の葛藤を自分で見る事になるとは、後藤は皮肉に笑う。 後藤「誰の悪意だよ……。笑えねぇなぁ」 律「何か言った?」 後藤「大人の戯言さ」 恨み言をつらつらと垂れ流す気にはなれなかった。 自分は敗者で、律達は勝者。 想いをそのままぶち撒けてしまえばそれは醜い負け惜しみになるような気がしたから。 律「私らが南極に乗り込んだ時さ、幼馴染みが一緒にいたんだ。澪っていうの、知ってる?」 後藤「みお、ミオ、澪……。あぁあのおっぱいネーチャンか。資料でちらっと見たな」 じわじわと色濃く滲んでゆき、思い出されてゆく記憶。 律の顔もその時見た資料に載っていた事に気付く。 後藤(名前は確か……。ド田舎? なんかそんな感じだったか) 後藤「……田舎」 律「は?」 後藤「いや何でもない」 煙草の灰がフィルターに達し、火種が零れ落ちる。 律「人と話す時はいっつもおどおどしててさ、その癖私に対してだけはやたらと偉そうな事言うんだ。馬鹿律! なーんて言って拳骨してきてさ。それがまた痛いのなんのって」 身振り手振りは大仰に、愚痴を零しているわりにはやけに楽しそうだった。 律「でもなーんにも出来ない奴だった。そりゃ頭も良いし、顔も女の私から見てもすんごい綺麗だけどさ。人から見たあいつの良い所はあいつにとっては欠点だったんだよな」 後藤「はあ、顔も良い頭も良い。運動神経なんざあのガッコに通ってんなら聞くまでもねーし。なんにも困んねーじゃん」 安直過ぎる答えだった。 だがむしろ律はそれを望んでいた。真摯な態度も核心を突くような言葉も望んでいない。 ただ上辺だけ捉えて、次の日には忘れるであろう率直な感想が聞ければそれで良い。 誰かに聞いて欲しいと思う反面、心の奥底の弱い部分には触れて欲しくない。きっとそんな辻褄の合わない気持ちの現れなのだろう。 律「だけど虫一匹殺せないような奴だったんだ。ちょっと紙で切ったぐらいの血を見ただけでびくびくしてさ。そんな奴が私と同じって理由だけで桜高に入ったんだ。世話の焼ける奴だよ」 後藤「お前、それって……」 後藤は何か言いかけて口を閉ざした。 後藤「それってわりぃ事なのかね」 ぽつりと呟いた。 ぶっきらぼうではなく、教え諭すような口調だった。 後藤「ほっといても変わっちまうのが人間ってもんだろ。お前が何をしても何もしなくても、そうなっちまうもんさ」 でも、と否定したい自分が居た。 けれどそれがあまりにも独り善がりの我儘だと思って、それを口に出すのは許せなかった。 後藤「その過程で傷付いたり傷付けたりする事もあるけどさ、まぁそれが大人になるって事なんだろうよ」 色んな覚悟を決めたのに。 こんなにも自分が矮小に思えて。 心の奥の方は決して揺るがさないと決めたのに。 こうもあっさりと懐柔されてしまう。 それは彼が精神的にも、人を傷付けて、傷付けられる事に関しても、ずっとずっと大人だからなのだろう。 全てをさらけ出してみたくなった。 でもきっと駄目だ。きっとそれをしてしまえば……。 多分泣いてしまうだろうから。 律「子供の戯言……。全部聞いてくれるかな」 駄目だ。なんでこれ以上甘えようとするんだ、田井中 律。 律「……あ」 あーあ。 おい、何泣いてんだよ。俺はそういうの苦手なんだって。 ごめん、でももう何か無理なんだ。私なりに色々考えてみたけど……。 何にも解らないんだ。澪の事も、私の事も、皆の事も。 何も見えてこなくてさ、今まで私はそういうの向いてないからって言い訳し続けてたのに……! もうそんな自分にも嫌気が差してきたんだ……! そんなのも引っ括めてお前だろーが。お前の中身まで見透かして心配してくれる奴なんざいねーよ。 お前が嫌ってたんじゃあお前自身が救われねーじゃねーか。 でもさ、なんにも見えてこないのにへらへらなんて出来ないよ。 皆どんどん強くなって、でも段々笑わなくなってきて……。 このままじゃあ皆死人みたいになってくんじゃないかって……。 それが変わるって事だよ。お前の周りの人間はそれがちょっと解りやすかっただけさ。 死人みたいになったって、死んだとしてもそれは変化の一部さ。 けど死んじゃうのは怖いよ。それが私じゃなくても、私が知ってる人が死んだら悲しい……。 経験してない事は誰だって怖いよ。俺だって怖い。 けどそんなに怖がらなくても良いって事を俺は知ってるよ。 大きくなって背が伸びていって、小学校から中学校に進んで、今の仲間と初めて出会って……。 お前はその時怖かったか? 悲しかったか? ううん、怖くないし悲しくない。 なんでか解るか? ……解らない。 だろうな。なら教えてやんよ。 それはその時のことを他でもない自分自身が、きっと覚えてやれるって確信してるからだよ。 何言ってんのかわかんないよ……。 うぐ……。 つまりだな……。大きくなってもガッコの友達と別れても、きっと思い出ってやつは残り続けてくれるって、そう思っちまってるから怖くないんだよ。ほんとはそんな事ねーのにな。 でも死んじったら怖い。友達に死なれたら恐い。 死んじまったら思い出も消えちまうし、死なれちまったら自分の事を忘れられちまうから。 うん……。 でもそれってさ、すげー狭い考えだと思うんだよ俺は。 たとえ自分が死んじまっても一緒に居た時の事を覚えててくれるヤツはいる。 たとえ誰かに死なれても、自分が死んじまったヤツの事を覚えててやれる。 そうやって悲しい事を一人が背負い込んでしまわねーようにさ、不安やら疑問やらは持ちつ持たれつで回ってんのさ。 …………。 お前は頑張ってるよ。闘ってるよ。 のっぺりした人形みたいになっちまう友達に呑まれないように覚えててやってんだからさ。 一緒に遊んだり悪さしたりした時の事を覚えてて、たまーにそれに甘えちまう事は弱さじゃない。 それが出来るヤツは傷付けたヤツ、傷付けられたヤツの事も背負えるんだ。 ……ありがとう。 礼を言うんならさっさと泣きやめよ。俺はそういう辛気臭いのが大っ嫌いなんだよ。 …………。 だから泣くなって言ってんだろ! いい加減ぶん殴るぞ? 違うんだ。多分嬉しい筈なんだけどさ……。止めようと思っても止まらねーんだよ……。 はぁ……。でも分かったろ? 世界はお前が思ってるよりお前に優しく出来てるよ。 お前は主人公だから。お前達は主人公だから。 だから塞ぎ込んで潰れちまう前に造り替えちまえ。 うだうだ言う奴は全部通過点だ。ぶん殴って推し通れ。 お前にとって都合の良い世界ってのはお前が我儘になんなきゃ出来ねーからよ。 何かを掴もうと、触れようとして翳した手が宙を掴んで、私は何となく切なくなった。 それでも目の前に佇むこの人に対する感謝の気持ちは絶えなくて、ありがとうと呟いては胸の奥がきゅっと絞まる。 その度この人は困ったように笑うから、だから私は彼が言ったように、ほんの少しだけ我儘になってみよう。 何がどうなっても私は私で在り続けると、その果てでどんなに理不尽な事が起きても、我儘に、子供のように駄々をこねて、きっと『元通り』を取り戻してみせる。 そう思うと何となく、何となくだけど空が近くなったような気がした。 小さな月に私の手が、届くまであと、どれくらいだろう。 ※未完結 戻る
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姫子「私の話はこれでおしまい」 事のあらましを語り終えた姫子は、通り過ぎようとしていた店員に追加のコーヒーを注文した。 エリ「その『龍』って……。あの子の……?」 姫子「あの子のそれとは似て非なるものだね。恐さの度合いが違い過ぎる」 アカネ「嘘でしょ……」 三人の会話について行けず、自分が蚊帳の外にいるような感覚になったしずかは存在を主張するように問い掛ける。 しずか「あの子? そんなおっかない子なんて他にいるの?」 姫子「佐伯 三花」 しずかの問いに姫子は即答する。 遠い日の思い出を振り返るような面持ちで。 姫子「『獣王』か……。懐かしいね」 仰々しい通り名を呟き、姫子はやって来たコーヒーに口をつけた。 エリ「バレー部の最終兵器よりも怖いのかぁ……。私達がどうこう出来る次元じゃないよね」 アカネ「最終兵器、か。正しくは二束三文の欠陥品だよね」 同じ部活の部員の仲間であるにも関わらず、二人はその人物を軽蔑するような口振りで話している。 しずか「佐伯 三花って、同じクラスの佐伯さんだよね? あの子ってそんなに強いの?」 しずかの中の佐伯 三花は少々落ち着きが無いものの、強者特有のオーラ即ち闘気を感じるほどの人物では無かった。 しずかが疑問を感じるのも無理は無い。 アカネ「姫子的にはどうだった?」 姫子「うん、負ける気はしないけど二度とやり合いたくはないね」 姫子は苦笑いを浮かべつつ即答した。 姫子「けどあの唯はそれ以上だね。やるやらないじゃなくて二度と戦えないよ。次にあの子と妹さんと戦う機会があるとしたら、多分一歩も動けないと思う」 姫子は一瞬だけ身震いし、それを誤魔化すようにコーヒーを喉に流し込む。 しずか「姫子がそんなになってるのに、私達に出来る事なんてあるの?」 しずかは不安げに姫子に尋ねた。 姫子「臆病者には臆病者なりの立ち回りがあるのよ。この二人はその処世術を心得てるよ」 エリ「あははっ、酷い言い草だね!」 アカネ「私達は協力するよ。使われない最終兵器を使う事も厭わない」 誰にも知られずに、ここに一つの勢力が出来上がろうとしていた。 澪の修行、律達と純の力の邂逅、姫子達の会合。 各々の思惑が違ったベクトルを持ち、進み始めた日は終わり、時刻は午前八時半を刺している。 純「…………」 梓「…………」 喧騒溢れる朝の教室で、純と梓は一つの机に向かい合うように座っている。 純は厚めの漫画を読み耽っており、梓はそれを気まずそうに眺める。 梓「ねぇ、純……」 純「んー?」 気を遣うようにおずおずと話し掛ける梓とは対照的に、純は本から目を切らずにのうのうと答える。 梓「何であんなに強いのに高い序列を目指さないの?」 純「んー」 返事になっていない返事を返され、梓は内心苛立った。 だが苛立ったところで自分が純に敵う筈もないという事を知っている梓は、それをぐっと堪える。 梓「……まぁ良いや、それよりも放課後中庭に来てくれる? 先輩達も純に話があるみたいだから」 純「おおっ!? これかっこいい!!」 純は漫画を机に伏せ、人指し指を突き出した形の貫手で宙を突いた。 僅かに巻き起こった風圧が梓の髪をそっと撫でる。 純「指銃はこれで良いでしょ、んでもって嵐脚が……」 純は梓の事などそっちのけで漫画の技をコピーする事に夢中になっている。 梓「はぁ……。ちゃんと伝えたからね?」 立ち上がり、くるりと踵を返すと梓は自分の席についた。 そこで一限目の授業の予習をしていない事に気付いた梓は、そそくさと鞄の中からノートと参考書を取り出して広げる。 梓(……こんな事してる場合じゃないのにな……) 内心焦っていた梓だが、無情にも時間だけが過ぎてゆく。 学生としての本分を成し遂げなければならないと主張する自分と今直ぐにでも強くなる為の鍛練を始めたいと主張する自分が心の中で責めぎ合う。 そんな梓のジレンマを余所に、純は呑気に漫画を読み耽っていた。 授業は滞りなく終了し、生徒はそれぞれ部活に精を出すであろう放課後になった。 普段は運動部の生徒達の活気で溢れているグラウンドは、不気味なほどに静まり返っていた。 純「気が気じゃないんですよねぇ。こんなだだっ広いところで闘うなんて」 律「まぁそう言うなって。私達も必死なんだよ」 律、紬、梓、そして純。 それぞれの思惑を胸に抱えた四人がグラウンドの中央で対峙していた。 純「全力でぶつかり合って私が師とする人間として相応しいか見極める、ですか。そりゃ私は良いですけど……死んでも知りませんよ?」 律「言ってろ」 律は薄ら笑いを浮かべつつ大地を踏み締める。 その後ろで梓は銃を構え、紬は腰を落として身構える。 純「では──」 純もそれに応じて身構えた時、それは起きた。 「面白そうな事してるじゃないか」 凜としたその声の後に、純達の身体を何か冷たいモノが通り過ぎた。 桜高指定のスカートとブラウス、そしてその上に紫色のパーカーを羽織った少女が四人の間に現れた。 澪「私も混ぜてくれよ」 抜刀と共に澪の周囲を一筋の閃きが走った。 風が靡き、冷たい空気が辺りを覆う。 純「澪……先輩?」 その堂々とした立ち振る舞い。水氷の如く研ぎ澄まされた冷たい闘気。 純がよく知る澪と今の澪は別人と言っても過言ではなかった。 紬「澪ちゃ──」 律「今まで何やってたんだよ馬鹿野郎!!」 紬の声を遮り、律が叫んだ。 澪「死んできた」 澪は微笑みながらあっさりと返した。 表情こそ柔らかいが、その身体から溢れ出る闘気は律の心をざわつかせた。 律(澪……?) 闘気という概念を理解していない律には今の澪の存在が頼もしくもあり、恐ろしくもあった。 それは紬も梓も同様なのだが、この場に一人だけ、澪の闘気を肌で感じ取って尚感情を高ぶらせる者が居た。 純「あは、はは……」 純は額から汗を流し、引きつった笑みを浮かべていた。 純(やばいやばいやばいやばいヤバイヤバイヤバイ……!!) 自分と対等であろう存在が目の前で臨戦態勢を取っている事に、純は言い様も無い快感を覚えていた。 骨の髄まで染み渡る闘気は純の腰を砕き、秘部を濡らし、絶頂に連れてゆこうとする。 純(目茶苦茶気持ち良いんですけど──っ!?) 気を緩めれば意識を持っていかれそうになる程の快楽に耐え、純は身構えた。 澪「鈴木さん、顔が赤いけど大丈夫?」 対する澪はいたって平静で、純の事を気遣う余裕すら見せている。 純「大丈夫です。それよりも……」 澪「さっさと始めよう、かな?」 純の心の声を感じ取った澪はそれをそのまま代弁する。 純が力強く頷くと、その直後に二つの闘気が責めぎ合う。 梓「何ですかこれ……っ!?」 梓は銃を手放し、目を見開く。 二人の姿を凝視していた梓だが、彼女にその動きを捉える事はできなかった。 純「へぇ……」 達人の域すら凌駕した純の高速の後ろ回し蹴りを、澪は右手だけで受け止めた。 純「よっと!」 力の勢いを殺さずに軸にしていた右足で追撃を放つ。 それを屈んで躱す澪。だがその隙は純に必殺の一撃を放たせるには十分過ぎる隙だった。 純「我流六式──っ!」 澪の頭を跨ぐ形で着地した純は右手を引く。 澪「っ!?」 純「指銃っ!!」 銃弾の如き速度を持った指が澪の顔面目掛けて放たれる。 その力は鉄をも穿ち、その速さは飛ぶ鳥すら落とす。だが──。 澪「遅い!」 左手に持つ刀の腹でそれを受け止める。 二つの力は拮抗し、刀は小刻みに震えている。 純「絶刀『鉋』でも使ってんですか……。普通なら真っ二つです、よ!」 澪「闘気を流し込んでるからね。核でも使わない限りは折れないよ」 澪はそう言いつつ、空いた手を純の胸に添えた。 澪「型に嵌まらない流水のような闘気。同じ色でも私とは真逆の性質みたいだな」 純「──っ!?」 純は手を添えられた胸の辺りから全身にかけて、何かが波打つのを感じた。 咄嗟にその場を離れようとするが身体が鉛のように重く、思うように動かない。 澪「でも残念。容量は私の方が上だ」 内臓や脳、血液。身体の中にあるもの全てがひっかき回されるような錯覚と共に純は真後ろに吹き飛んだ。 着地の瞬間に受け身をとって衝撃を殺すも、澪が与えたダメージはそれなりに響いていた。 純「なに……これ?」 純は噎せ返り、不快感を伴う頭痛に頭を抱えた。 澪「…………」 澪は純から目を切らずに、その場で刀を振った。 それと同時に冷たい飛沫のようなものが純と律達にかかる。 律「うおっ冷て!?」 紬「これは……?」 肌に触れた冷たい感触に律達は跳ね上がった。 澪「水さ」 事もなさげに言い放ち、澪は更に大きく刀を振るった。 刃の軌道に合わせて透き通った水が現れ、音を立てて地面を濡らす。 純「なるほど……。それが澪先輩の力ってわけですね」 よろよろと立ち上がった純はふらつきながらも澪を見据える。 だが全身に負った得体も知れないダメージは確実に純を蝕んでいた。 純「最っ高ですね!!」 純は右手で拳を作り、自分のこめかみを躊躇無く殴り付けた。 保護が薄い頭部からは血が噴水のように吹き出る。 純「我流六式──」 痛みで意識をはっきりさせた純は腰を落とし、臨戦態勢を取る。 純「嵐脚!!」 大地を蹴り、大きく前進すると地に手をつき、カポエイラの要領で両足を薙いだ。 風の刃が形成され、それは澪目掛けて直進する。 だがそんな単調な攻撃が今の澪に通用する筈もなく、刃を翳すだけであっさりと打ち消されてしまった。 澪「なっ──!?」 風の刃を打ち消した先に純が居ない。 それに気付いた頃には純は既に澪の懐へと潜り込んでいた。 純「飛燕──!」 澪が動くよりも速く、飛ぶ燕の影のように鋭い蹴りが澪の肩を捉える。 純「連脚っ!!」 次いで二羽目の燕が澪の側頭部を捉えた。 純はインパクトの瞬間に打撃点を逸し、足で鎌のような軌道を描いて澪の頭を地面に叩き付ける。 そのまま澪の頭部を踏み砕こうとしたその時、純の首目掛けて刀の鞘が飛んでゆく。 手首のスナップだけで放ったそれは銃弾のような速度を持っていた。 純「うおっ!?」 純は大きくのけ反り、澪の頭を踏む足の力を緩めてしまう。 その一瞬の隙を突き、澪は蛇のように滑らかな動作でその場を離れた。 澪「……色は青色じゃない? どういう事?」 純「あっはは、七色ローズの純とでも呼んで下さい」 ずきずきと痛む肩と頭を庇いつつ、澪は薄ら笑いを浮かべた純を睨む。 炎すら凍り付かせる冷たい面持ちの後に、そっと微笑んだ。 澪「なるほど、一筋縄ではいかないな。……『殺陣』を使うか」 純「奥の手ってやつですか? 良いですねぇ、もっと楽しませて下さいよ!!」 その刹那、流れ出た闘気は辺りの空間を一瞬にして捩じ曲げた。 澪は刀を下段に構え、大きく深呼吸すると真一文字に薙いだ。 軸足の爪先を浮かせ、そのままコンパスのように一回転する。 刃の軌道をなぞるように水が現れ、澪の周囲を輪のように囲った。 梓「魔法でも見てるみたいです……」 律「ああ、私もだよ」 律と梓は自分達が居る領域を遥かに凌駕してしまった澪を見て、改めて自分達の弱さを認識した。 紬はひたすらに押し黙っている。 澪「鈴木さん」 凜と鳴る声は純の頭に妙に重く響いた。 風が靡き、宙に浮いた水の輪は不安定に揺らぐ。 純「…………」 冷然としたその空気は、純の警戒を更に強めるには充分だった。 澪「この輪の中は私の『絶対領域』だ。髪の毛一本でもこの中に入ればたたき切る」 澪はそっと指の腹で刀身をなぞった。 純にはそのなぞられた刀身が鋭く輝いて見えた。 澪「だけど私はこの輪の中から出る気は全く無い。これは困ったぞ、これじゃあ鈴木さんは手も足も出ない」 腰を落とし、澪は刀を携えてにやりと笑った。 普段の澪からは想像もつかない、動物的な笑みだった。 澪「どうする?」 純「…………」 純には二つの選択肢があった。 一つは危険と知りつつも敢えて輪の中に飛び込み、圧倒的な力で澪を叩き潰す。 純「…………」 そしてもう一つ、純の技のレパートリーには輪の外から澪を攻撃する手段など幾らでもある。 それらを使って削り殺しにしてしまう事だ。 あくまで勝ち負けに拘るのなら後者を用いるのが正解。純自身それは重々理解していた。 澪「怖じ気付いた?」 だがせせら笑う澪のその一言が純の闘志に火をつけた。 溢れ出る脳内物質は純の身体を更に高揚させてゆく。 純「あっは──」 気を抜けばよがり狂ってしまいそうな性的快感は、純の腰から首筋にかけて震え上がらせた。 そして純は思う。 この輪を、『絶対領域』を越えたその先にはどれほどの快感が待っているのだろうかと。 純「あっはははははっ!!」 純は高笑いした。だがその目は若干潤んでおり、頬は真っ赤に染まっている。 純「反則ですよこんなの! 楽し過ぎて狂っちゃいそう!!」 叫びながら純は地面を大きく踏み締めた。 一瞬で周囲に亀裂が走り、大地は激しく揺らぐ。 純「やっぱり澪先輩は最っ高ですね!」 歪な動作で腰を落とす。 何かの抵抗を振り払うような音がごきりと関節から響いている。 純「大好きです──っ!」 純は大地を蹴り、一瞬で輪の中に入り込んだ。 その光景は最早律達には捉えられていない。 澪「私も大好きだよ」 澪が振り降ろす刃は純の脳天を的確に狙っていた。 一撃必殺のその刃はあっさりと純に躱される。 純(ヤバ──。イッちゃいそうだよ──) 目に映る全ての物体がスローモーションで動く達人の世界の中で、純は壊れてしまいそうな快感を噛み締めていた。 両胸の突起は下着と擦れて刺激され、秘部は下着など意味を成さない程に蕩けきっている。 愛液が太股を伝い、その感覚が純に更なる背徳感と興奮を与えた。 純(もうどうにでもなれ──っ!」 純の動きは衰えない。 襲い来る数千、数万の刃を躱し、時には受け流して一歩ずつ澪に詰め寄ってゆく。 澪(化け物か──っ!?) 刹那の間のその攻防の中で、澪は静かに恐怖していた。 『絶対の彼方』を越えて更なる高みに立った自分を更に凌駕する鈴木 純。その存在に。 純(この時がずっと続けば良いのに……) 純の危険な思考は一瞬だけ防御の手を緩めた。 澪(貰った──っ!) その一瞬の隙を突こうとして澪は無理矢理に体勢を変えて切りかからんとした。 それは僅かに攻撃の手を遅くする。 純の隙。澪の隙。 互いが互いともにその隙を突かんとし、必殺の一撃を放った。 澪(くそっ!) 純(勝った──!) 丁度クロスカウンターの形になって澪の刀と純の拳は交差する。 純の拳は澪よりも若干速く、互いが勝敗を確信していた。 その時──。 澪「~~っ!?」 純「あだっ!?」 二人の間に更に二人が割って入り、澪と純を吹き飛ばした。 不意の出来事に二人は成す術無く地面を転がってゆく。 和「私はあなたに律達の指導を任せたつもりなんだけど」 恵「新しい玩具で早く遊びたい気持ちも分かるけど、少しは大人にならなきゃね」 澪と純が居た場所で背中を合わせるように恵と和が立ち尽くしていた。 律「まるで『絶対の彼方』を越えた奴等のバーゲンセールだぜ……」 律は冷や汗を流しながらも、呆れ気味にそう呟いた。 恵「あなたらしくないわね。自分から格上に挑むなんて」 澪「…………」 刀の柄に手をかけて悠然と歩み寄る恵に気圧され、澪は口を噤んだ。 和「お願いだから手をかけさせないで。やっと傷が癒えたのに胃に穴なんて開けたくないの」 純「…………」 明らかに不機嫌そうな面持ちで純に歩み寄る和。 だが純も負けてはいない。 何物にも代えられない至高の快感を奪われた純は反抗的な目付きで舌打ちをした。 和「……まぁあなたの性格をきちんと把握してなかった私にも非があるわね」 帯刀していた得物を抜き、純の眉間に突き付ける。 和「今回は不問にするわ。でも次はその首跳ねるから」 純「……私らの喧嘩に首突っ込まないで下さいよ」 和「下品にお露垂れ流しながら言う台詞じゃないわね」 純は和の嘲笑で闘いの熱が急速に冷めてゆくのを感じた。 同時に知り合いの前で淫らな醜態を曝してしまった事を悔やむ。 和は今にも食いかからんばかりに自分を鋭く睨む純に、冷たく微笑みかけた。 和「そんなに物足りないなら私が慰めてあげても良いわよ」 純「……勝てない喧嘩で燃えるほどマゾじゃないです」 反抗的な姿勢も崩れてゆき、しどろもどろになるその姿はどこかしおらしく見える。 恵「まだあなたの力は錬磨していないって言ったでしょう?」 澪「……ごめんなさい」 澪は母親に咎められた子供のように肩を縮こまらせている。 恵「急いては事を為損じる。あなたの人格なら重々理解してると思ってたんだけど、買い被り過ぎたみたいね」 澪「…………」 物乞いを見下すような恵の冷たい表情から鑑みられる感情は、確かな失望だった。 恵はゆっくりと腰に差した模造刀を抜いた。そしてそれを大きく振りかぶる。 その軌道の先に自分の頭があると知りつつも、澪は動こうとはしなかった。 澪「あが──っ!」 模造刀は躊躇無く澪の額に叩き込まれた。 鮮血が一気に噴き出し、澪の目を塞ぐ。 澪「いっつ……!」 澪は傷口を抑えて身体を捩らせる。 その姿を恵は冷たい瞳で見下ろしていた。 恵「額は血が出やすいからそのくらいなら平気よ」 澪に手を差し延べる事もなく、恵は模造刀の血を払って鞘に収める。 和「……少しやり過ぎじゃないですか? 相変わらず優しくない人ですね」 恵「温い馴れ合いで後輩の指導を怠るのが優しさなら、私は優しくなくても良いわ」 空を仰いで淡々と言い放つ恵に向けてそっと溜め息をつき、和は律達の方を見た。 和「アンタ達、まさかこの子に喧嘩売ろうとしてたの?」 呆れたような笑みを浮かべたまま、和は膝を折っている純の頭を鞘で小突いた。 律「だったらどうなんだ?」 和「別に、ただあまりにも馬鹿馬鹿しくてね」 鞘に納めた刀をくるくると回しながら、和は挑発するような笑みを浮かべる。 律「…………」 律はそれに応えることなく、押し黙った。 先の純と澪の邂逅を見て自分達の矮小さを認識させられた律達に抗う術などなかった。 純や和はおろか、澪ですら今の自分達では敵いはしない。 その事実を痛いほどに噛み締めている。 律「……なぁ教えてくれよ。『絶対の彼方』ってのは一体何なんだ?」 和「下らないプライドなんか持たずに最初からそう聞けばこの子も教えてくれたんじゃない?」 純「まぁ確かに……」 和「調子に乗れとは言ってないけどね」 純の方を見ずに彼女の頭を容赦無く踏み付ける。 純の顔面は地面にめり込み、そこを中心に大きくひびが入った。 恵「……優しくないわね」 和「優しくない先輩を見習いましたから」 二人の間で一瞬だけ闘気が渦巻き、それは直ぐに沈静化された。 恵「……強くなったわね」 和「あなたに追い付く為に今まで頑張ってきましたから」 恵「私とあなたの差なんて『桜花』を持っているかいないかの差だったじゃない」 和「あの時私に『桜花』があればあなたに勝てていたとでも? 過度な謙遜は嫌味にしか聞こえませんよ」 梓「あ、あの……」 自分が蚊帳の外に放置されている現状に耐えかね、梓がようやく口を開いた。 梓「私もう頭が混乱してわけ分かんなくなっちゃってるんですけど……」 しどろもどろになりつつも梓は自分が抱く疑問を必死に伝えようとする。 梓「あなた達は何がしたいんですか?」 梓の問いに対して純は顔を上げ、にやりと笑った。 恵は静かにほくそ笑んだ。 和は優しく微笑んだ。 「あなた達を強くしてあげるわ」 12